2012年のスマートフォン/タブレットで注目すべきは、第1回第2回で紹介したクアッドコアCPU搭載機だけではない。LTE(Long Term Evolution)方式サービスが充実し、これに対応した製品が多数登場する。対抗馬であるWiMAX搭載端末との競争も相まって、2012年に本格普及する可能性が高い。LTEの最大通信速度は下り方向(携帯電話基地局から端末)で数十M~100Mビット/秒前後。対応端末では、HTML5を多用したWebページや高画質・大容量の動画でもすぐに表示できるようになる。

 加えてLTEは上り方向の通信速度も最大10Mビット/秒超と、3G通信より大幅に高速化する。データの遅延も少ない。これらの特性が組み合わさることで、スマートフォン/タブレットがクラウドやソーシャルメディアとより密接に連携しやすくなり、先進的なユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)をもたらす--。これが、LTEのもう一つの“威力”だ。

高速通信と低遅延がクラウドとスマホの連携をより密接に

 国内におけるLTE方式サービスの商用化で先行するNTTドコモは、クラウドとスマートフォンが密接に連携することで新たなユーザー体験を提供するようなサービスを提供し始めた。2012年3月1日に開始した「しゃべってコンシェル」である(関連記事)。これはスマートフォン上で対話型の音声アシスタント機能を実現するもので、米Appleの「Siri」(3月8日に日本語へ対応、関連記事)と共にユーザーから熱い注目を集めている。

 しゃべってコンシェルの利用イメージについては動画1をご覧いただきたい。ユーザーが端末に入力した音声を2秒程度のタイムラグで認識・解釈し、文脈を正確に解釈して、端末の機能を呼び出したり適切な回答を提供したりしている。実はこの1~2秒の間に、音声が無線ネットワーク経由でNTTドコモのクラウドに送られ、クラウド上の音声認識エンジンや意図解釈エンジンが実行され、回答を無線ネットワーク経由で返している。

 NTTドコモは他にも同じ仕組みを利用したスマートフォン向けサービスとして「通訳電話」を用意している(動画2)。これは日本語で話しかけるだけで外国語の音声とテキストに翻訳して相手に伝えるサービスで、しゃべってコンシェルに先駆けて2011年11月から試験提供中である。こちらも端末とクラウドが高速に連携していることによって、話者同士のスムーズなコミュニケーションを実現している。現在このサービスでは日本語/英語のほか、日本語/韓国語、日本語/中国語の間も相互に通訳可能だ。NTTドコモの栄藤稔サービス&ソリューション開発部長は「機種に依らず高い精度で音声認識できる。ユーザーの音声データがクラウド上に集まることで特徴を分析しやすくなり、認識精度をより一層高めていくことが可能になる」と狙いを説明する。

 ただしこうした仕組みをベースにしながらユーザーと端末との“自然な対話”を演出するには、サーバーの処理速度はもちろんネットワークの応答速度も一層高め、タイムラグを短縮していく必要がある。このことはしゃべってコンシェルや通訳電話だけでなく、Siriのようなサービスにも共通の課題だろう。そうした意味で、最大通信速度だけでなく低遅延が特徴のLTEは重要な鍵を握っているのだ。

 NTTドコモの大井達郎経営企画部課長は今後のサービス展望について「端末上での処理や記憶領域の一部をクラウド側で肩代わりしてもらい、LTEの特性を生かして高速にデータをやり取りすることで、より高度なサービスが実現できる」と語る(関連記事)。