ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 前々回(米国の動きに見るこれからのIFRS(上))、前回(同(中))と2回にわたり、IFRS(国際会計基準)に対する米国の取り組み方を整理して、紹介してきた。以下の八つのイベントのうち、すでに(1)~(7)まで取り上げた。

(1)2010年2月24日:SEC(米国証券取引委員会)がIFRS適用延期を発表
(2)2010年10月29日:SECワークプランプロジェクトの中間報告を発表
(3)2010年12月6日:AICPA(米国公認会計士協会)の年次カンファレンス
(4)2011年4月21日:IASB(国際会計基準審議会)/FASB(米国財務会計基準審議会)による合同プロジェクトの延期を発表
(5)2011年5月26日:SECがスタッフペーパー「IFRS取り込みの方法論に関する探索」を発表
(6)2011年11月15日:FAF(Financial Accounting Foundation:財務会計財団)がSECスタッフペーパーに対するコメントレターを発表
(7)2011年11月16日:SECがスタッフペーパー「米国基準とIFRSの比較」「実務におけるIFRSの分析」を発表
(8)2011年12月5日:AICPAの年次カンファレンス
 (8-1)SEC主任会計士クローカー氏のスピーチ
 (8-2)FASB議長サイドマン氏のスピーチ
 (8-3)SEC副主任会計士ベスウィック氏のスピーチ用書簡(スピーチなし)
 (8-4)IASB議長フーガ―ホースト氏のスピーチ

 今回は残る(8)を説明した上で、今後の展開のポイントや、日本に対する影響について考えてみたい。

(8)2011年12月5日:米国公認会計士協会(AICPA)の年次カンファレンス

 前々回の(1)で触れたように、SECは米国におけるIFRS採用の可否判断を「2011年中」と宣言していた。ところが2011年12月のAICPA年次カンファレンスで、さらに延期するという旨を発表した。

 以下、SEC主任会計士クローカー氏とFASB議長サイドマン氏のスピーチ、SEC副主任会計士ベスウィック氏のスピーチ予定書簡、およびIASB議長フーガ―ホースト氏のスピーチの概要を紹介する。ここから、今後の米国の動きがかなり見て取れる。なお、ベスウィック氏は発表準備をしていたものの、スピーチをしなかった。

(8-1)SEC主任会計士クローカー氏のスピーチ

 クローカー氏のスピーチで、米国のIFRS採用可否判断の延期を正式に表明した。同氏は延期の理由として、大きく2点を挙げている。一つは、IASB(国際会計基準審議会)/FASB(米国財務会計基準審議会)の合同プロジェクトが2011年6月までに終了しなかったこと。もう一つは、2011年に可否判断をするという日程の順守よりも、成果物の質の向上を優先させたことである。

 これから検討すべきことは多く残っており、いつまで延期するかを正確には言えない。少なくとも数カ月は必要である。それでもワークプランは最後までやりぬいて完成させる。クローカー氏はスピーチで、こうした内容を述べている。「検討すべきことは多く残っている」とは、2011年11月にSECが発表した二つのスタッフペーパー(前回の(7)を参照)で指摘している課題を指す。

 さらに、作業を進めるに当たり、米国の投資家や資本市場に最大限の便益をもたらすという理念が基本である。この機会を利用して、しっかりとした長続きする枠組みを確立することが重要であるとして、基本とすべき項目を五つ挙げている。

  1. グローバル統一の高品質の会計基準の継続的開発と使用に対する米国のコミットメントを示す
  2. 米国証券市場で適用される基準に対して、米国としての権限を明確にする
  3. 国際基準設定プロセスに米国の意見を強く提供し浸透させる
  4. 基準の変更に伴う経済的あるいはその他の影響に適切に対応する
  5. 各種規制、契約関係文書、米国内法律に関するコストと複雑性の最小化のために、米国の財務報告機能として米国基準は存続させる

 これは2011年11月にFAFが発表したSECあてのコメントレター(前回の(6)を参照)をほぼそのまま引用している。