ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 日本の会計基準の設定主体であるASBJ(企業会計基準委員会)は2012年1月10日、第235回委員会で、無形資産(開発費)、企業結合(のれん)、退職給付、および包括利益の4項目に関する今後の進め方について議論した。これらは、2011年4月に報告書を公表した「単体財務諸表に関する検討会議」(関連記事:望まれる「単体財務諸表」に関する本質的な議論(上)同(下))に関連するテーマである。

 第235回委員会では無形資産と企業結合について、当面現状維持、つまりIFRS(国際会計基準)へのコンバージェンス(収斂)を行わない旨の方向性を事務局が提案し、各委員とも特に異論がなく賛意を示した(関連記事:「開発費・のれん」は現状維持、ASBJがIFRSコンバージェンス方針を議論)。

 開発費の資産計上に関しては、IFRSの改定を進めるIASB(国際会計基準審議会)/FASB(米国財務会計基準審議会)でも意見が分かれているところである。その動きを見て判断せざるを得ないという面があるのは致し方ないであろう。

 一方で、のれんの償却の現状維持に関しては、いささか疑問を感じる。IASB/FASBは明確に非償却を打ち出しているからである。積極的にIFRSへのコンバージェンスを進めてきたASBJとしては、金融庁 企業会計審議会などの動きを見据えて小休止しているのであろうか。

 ただし、証券市場のグローバル化、ボーダレス化が加速度的に進んでいる以上、会計基準の国際的収斂は止められるものではない。IFRSを適用する国も増えており、IASBのハンス・フーガ―ホースト議長が言うように、グローバル化した証券市場における共通の度量衡として、現時点ではIFRSが唯一の候補である点は紛れもない事実である。

2010年から、IFRSに対する米国のスタンスに変化

 ここで注視が必要なのは、IFRSに対する米国の取り組み方である。2010年から、米国のIFRSへのスタンスに変化が生じてきた。米国の影響を強く受けざるを得ない日本としては、その動きをウォッチし、その背景を正しく理解しなければならない。

 今回から3回にわたり、これまでの米国の動きを整理して、今後の展開のポイントを考えてみたい。

 米国の現時点の考え方は、2011年12月5日に開かれた米国公認会計士協会(AICPA)の年次カンファレンスにおけるSEC(米国証券取引委員会)主任会計士のジェームズ・クローカー氏、FASB議長のレスリー・サイドマン氏のスピーチに集約される。ここでは、SEC/FASBの動きを中心に、以下の八つのイベントから、ここまでの経緯を振り返ってみる。

(1)2010年2月24日:SECがIFRS適用延期を発表
(2)2010年10月29日:SECワークプランプロジェクトの中間報告を発表
(3)2010年12月6日:AICPAの年次カンファレンス
(4)2011年4月21日:IASB/FASBによる合同プロジェクトの完了延期を発表
(5)2011年5月26日:SECがスタッフペーパー「IFRS取り込みの方法論に関する探索」を発表
(6)2011年11月15日:FAF(Financial Accounting Foundation:財務会計財団)がSECスタッフペーパーに対するコメントレターを発表
(7)2011年11月16日:SECがスタッフペーパー「米国基準とIFRSの比較」「実務におけるIFRSの分析」を発表
(8)2011年12月5日:AICPAの年次カンファレンス
 (8-1)SEC主任会計士クローカー氏のスピーチ
 (8-2)FASB議長サイドマン氏のスピーチ
 (8-3)SEC副主任会計士ベスウィック氏のスピーチ用書簡(スピーチなし)
 (8-4)IASB議長フーガ―ホースト氏のスピーチ

 今回は(1)から(5)までを見ていく。次回は(6)と(7)を、その次に(8)と今後に関する筆者の見方を紹介する。非常に長い解説となるが、お付き合いいただければ幸いである。