日本の会計基準(日本基準)を策定しているASBJ(企業会計基準委員会)は2012年1月10日、第235回委員会を開催。IFRS(国際会計基準)と日本基準との主要な差異をなくすコンバージェンス(収れん)の方針について議論した。開発費やのれんの処理方法については「当面は現状維持」、包括利益については「当面は単体財務諸表に適用しない」との方針を打ち出し、委員もおおむね了承した。

 今回、議論したのは「単体検討会議に関連するテーマの今後の進め方について」。単体検討会議(正式名は「単体財務諸表に関する検討会議」)は、ASBJの上位組織にあたる財務会計基準機構(FASF)が2010年9月に設置した(関連記事:「単体財務諸表へのIFRSの影響を議論」、財務会計基準機構が検討委員会 )もので、単体財務諸表に対するIFRS(国際会計基準)の影響を議論していた。2011年4月に報告書を公表(関連記事:望まれる「単体財務諸表」に関する本質的な議論(上)同(下))後、同年6月まで議論を続けていた。

 ところが2011年6月の金融担当大臣発言をきっかけにIFRS適用方針が見直しになり、検討会議での議論は中断された。今回、検討会議での議論を引き継いで再開するにあたり、ASBJの西川郁生委員長は「長く議論していたにもかかわらず、結論を出さずにいるのは好ましい状態ではない。議論を終わらせるために、事務局から方針を出すことにした」と説明する。

 ASBJが出した方針は、(1)無形資産、(2)企業結合(ステップ2)、(3)退職給付(ステップ1)、(4)包括利益の四つに関するもの。(1)と(2)は2009年に論点整理が、(3)は2010年に公開草案が出ている。(4)は2011年3月期から連結財務諸表に適用されており、単体財務諸表への適用については「基準公表(2010年6月)から1年後を目途に判断する」としていた。

 今回の方針では、(1)では「開発費の資産計上」、(2)では「のれんの非償却」、(3)では「退職給付会計における未認識項目の負債計上」、(4)では「単体での包括利益の表示の取り扱い」をそれぞれテーマとして挙げた。四つのテーマはいずれも、IFRSの単体財務諸表への影響を懸念する声が多い項目である。

 (1)の「開発費の資産計上」について、検討会議は2011年6月時点で(a)連結は資産計上、単体は費用処理(連結先行)、(b)連結は資産計上を容認、単体は費用処理、(c)結論を現時点で出さず、連結・単体とも費用処理、という三つの案を出していた。今回の委員会では、(c)の現状維持を提案した。ASBJは「検討会議でも意見が割れており、基準改正のコンセンサスが得られていないと認識している」点を理由として挙げた。

 (2)の「のれんの非償却」について、検討会議は2011年6月時点で(a)連結は非償却、単体は償却(連結先行)、(b)結論を現時点で出さず、連結・単体ともに償却、の2案を示していた。今回の委員会では、(1)と同じく「定額償却+減損を支持する意見が多く、コンセンサスが得られていない」(ASBJ)として、(b)の現状維持を提案した。

 (3)の「退職給付会計における未認識項目の負債計上」に関しては、連結については「コメントでも異論が少なかった」(ASBJ)として基準の改正を検討。単体については現状維持として、「任意適用を可能にするかを別途検討する」という案を示した。

 (4)の「単体での包括利益の表示の取り扱い」については、同じくコンセンサスが得られていないことを理由に現状維持、すなわち単体では包括利益を表示しないという案を提示した。

 今回の提案に対して委員から特に異論が出なかったことから、ASBJは金融庁 企業会計審議会での議論と歩調を合わせつつ、個々の基準を議論していく見込みだ。四つのテーマの中では、優先度の高い(3)と(4)から着手するとみられる。