コンピュータの売上高で世界最大手の米Hewlett-Packard(HP)にまたしても不運が襲った――。2011年9月下旬、米欧の主要メディアは一斉にこうした論調でHPの新人事について報じた。米国時間9月22日、HPは就任から1年にも満たないLeo Apotheker最高経営責任者(CEO)が辞任し、取締役会も去ると発表した。同社の取締役会がApotheker氏の更迭を決め、後任として米eBay元CEOのMeg Whitman氏をCEO兼社長に任命したのだ。

写真1●HPのCEO兼社長に就任したMeg Whitman氏
写真1●HPのCEO兼社長に就任したMeg Whitman氏
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 これでHPでは過去6年で3人のCEOが追放されるという事態になった。HPは新たなCEOを選任するたびに理想的なトップ人事だと説明し、その根拠の正当性を主張してきたが、米欧のメディアは「相次ぎ起こる辞任劇を見るとHPはまるで何かに呪われているようだ」と同社の迷走ぶりを伝えている。

 HPでは2005年に米Compaqとの大型合併を強行したCarly Fiorina氏が取締役会との対立で会長兼CEO職を追われた。その後任としてMark Hurd氏が会長、CEO、社長職に就いたが、2010年の8月、元契約社員との食事代や出張旅費などに関して不適切な経費報告があったことなどがスキャンダルとなり同氏は追放された。さらにその間の2006年には、情報漏えいを調査する目的で「プリテキスティング」と呼ばれる身元を偽った不正な情報入手が発覚。その責任を取って当時のPatricia Dunn会長が辞任している。

 今回HPを去ったApotheker氏は統合基幹業務システム(ERP)を手がける独SAPでCEOを務めた人物で、Hurd氏の後任として2010年11月にCEO兼社長に就任した。同氏は就任直後からクラウドコンピューティングやソフトウエアなどを柱とした事業戦略、大規模なコスト削減策計画を発表するなど、経営改革を進めてきた。2011年8月には、パソコン事業の分離・独立(スピンオフ)の検討や、米Palmの買収によって取得したモバイルOS「web OS」端末の開発を打ち切る方針を明らかにし、一方で企業向けソフトウエアを手がける英Autonomyを買収すると発表した。

  しかし、米Wall Street Journalなどの米メディアによると、こうした大胆すぎる同氏の行動が投資家を動揺させた。同氏がCEOに就任して以来、HPの株価は40%以上下落。またApotheker氏はこれまで3度も業績見通しを下方修正しており、投資家が業を煮やしていたという。

 一方、新たにHPのCEO兼社長に就任したMeg Whitman氏は、2010年に米カリフォルニア州知事選に落選した後、2011年1月にHPの取締役に就いていた。ネットオークションサイトのeBayで10年にわたりCEOを務め、ネット販売の巨大企業へと成長させた実績は評価されているが、米New York Timesなどが「今のHPを立て直すにはWhitman氏では力不足、正しい経営判断ではない」と報じるなど、同氏がHPの経営でもその手腕を発揮できるかどうかは評価が分かれている。

 HPのRay Lane会長は「Megは経営者としての確固たる実績、技術に対する洞察、HPの製品、市場について知識があり、CEOとして適任だ」とし判断の正しさを強調するが、同社の問題は取締役会の迷走にあり、それが解決されなければまた同じことを繰り返すとも指摘されている。

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