IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー

ITベンダーにて組織再編について話す“システム屋”
ダメな“システム屋”の会話 若手“システム屋” 「先輩、ちょっといいですか?うちの会社のソリューション事業部のことなんですが」
ダメな先輩“システム屋” 「ん、どうした」
若手 「第1事業部と第2事業部で再編があると聞いたんですが、意味がよく分からなくて困っています」
ダメ 「はは、そうか。これまで第1事業部はCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)やSFA(セールスフォース・オートメーション)ツールを、第2事業部はグループウエアなどを売ってきた。これは知っているな?」
若手 「はい」
ダメ 「ところが、最近の流行はなんて言ったってクラウドだ」
若手 「クラウドコンピューティングのことですね」
ダメ 「そこで、従来の第1と第2を全部まとめて第1に押し込んで、第2はクラウド専門部隊にするってことなんだ」
若手 「・・・なるほど」
ダメ 「CRMもSFAもグループウエアも、一時期の流行は過ぎ去ったからな」
若手 「なんか流行事業部のような言い方ですね」
ダメ 「違う違う。ソリューションっていうのはな、問題解決って意味だぞ」
若手 「そうですよね。ところで当社が言うソリューションって、誰のどういう問題を解決することが狙いなのですか?」
ダメ 「は?」
若手 「いや、だからソリューション事業部は流行事業部ではなく問題解決事業部だということですよね」
ダメ 「お前分かってないなあ。流行している問題を解決するのがソリューションだろう。誰のどういう問題だとか、そんなことはどうでもいいんだよ」
若手 「えっ」

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ダメな理由:流行に流されている

 前回(第52回)は「“システム屋”の生産性」について指摘しました。今回はこの業界で生産性と同じぐらい頻繁に、しかし、安易に使われるソリューションという言葉について考えてみたいと思います。

 マーケティング用語でニーズ指向(needs oriented)とシーズ指向(seeds oriented)という表現があります。想定顧客のニーズを考えて売るものを企画していくスタイルと、新技術や新製品など新たに開発されたものを種=シーズとして、それを基に企画していくスタイルの2つをいいます。

 単純化してしまえば、売る相手を見つめながら何を売るかを考えるのがニーズ指向であり、売るものを見つめながら誰に売るかを考えるのがシーズ指向です。

 日本の大手ITベンダーの組織は、「金融システム事業部」「流通システム事業部」といった具合に、顧客企業の業界別に構成されていますから、ニーズ指向が基本であると言えそうです。そしてそこに後から「ソリューション事業部」「クラウド事業部」といったシーズ指向の事業部組織が加わったという経緯があります。

 1980年代から90年代にかけてERPパッケージが日本に紹介された頃、多くのITベンダーで誕生した「ソリューション事業部」は、米欧発のヒット商品を“担ぐ”ことを生業としてました。つまり、米欧で開発された新技術、新商品、新サービス、新概念などを日本に輸入し、売る相手を探してきたと言えます。

 担いだものは、例えばERPやCRM、SFA、グループウエアなどです。今なら、クラウドコンピューティングなども含まれるかもしれません。