IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー)

ダメな“システム屋”A部長 「はい。私が担当するA部は、昨年度の品質向上活動の手法を踏襲して、今期は、生産性についてもダメなプロジェクトやチームを徹底的に教育指導する考えです」
専務 「ふむ、そうか。B部の方針も聞いておこうか」
ダメな“システム屋”B部長 「はい。私が担当するB部は、ここ数年利益が出ずに苦しんできましたが、昨年度、ようやく収益性の改善を実現しました」
専務 「そうだったな、ご苦労様」
B部長 「コスト感覚やプロフィット感覚が鈍い者たちを徹底指導し、それなりの効果があったと思います」
専務 「なるほど」
B部長 「今期は収益性から成長性へと舵を切る年であり、新たな製品開発や顧客開拓に取り組みます」
専務 「それはいいね」
B部長 「ですので、今期は企画センスや調査センスが鈍い者たちを徹底指導せねばと思っています」
専務 「・・・ちょっといいかな。A部長とB部長に共通して言える問題点がありそうだ」
A部長&B部長 「え?」
専務 「品質が低い者を叩いて成果があったので、今度は生産性が低い者を叩く。コスト感覚が弱い者を叩いて成果があったので、今度は企画センスが弱い者を叩く。そういうことだな?」
A部長&B部長 「はい・・・」
専務 「そういう下を叩く方法が、あらゆる局面で効果的かどうか、それをよく考えてもらいたい」
A部長&B部長 「はい・・・?」
専務 「上を伸ばす方法だってあるんじゃないか、ということだよ」
A部長&B部長 「それはどういうことですか」
専務 「品質やコストについては組織の中に穴があってはいけない。そこから漏れてしまうからな。だからダメな者を徹底指導するのは有効かもしれない」
A部長&B部長 「ですよね、ですよね」
専務 「しかし生産性や新規事業などは、穴をふさいだり、下を叩く方法だけでは効果がないだろう。飛び出てくる者や、突出したアイデアを生かしてはどうだろうか」
A部長&B部長 「それなら我々はいつもやっていますよ」
専務 「いや、これまでに下を叩いてばかりいたやり方が、新しいアイデアをつぶすかもしれないと言っているんだよ!」
A部長&B部長 「うーん、そうおっしゃっても・・・」
ダメな理由:「徹底指導」しか能がない
前回(第35回)は個人に焦点を当てて「五月病脱出法」を指摘しました。今回は組織の話に戻って、情報システムの品質と生産性について考えてみたいと思います。
品質に問題があるというのは、ソフトウエアに欠陥やバグがあったり、顧客企業・ユーザーとの間に誤解があったり、あるいはシステム性能や例外処理、非常時対策に難がある、といった状況を指します。
品質に問題があれば“システム屋”は容易に気づきます。ユーザーだって気づくでしょう。なので品質についての対策の第一は、問題を事前に防ぐ予防型の管理となります。穴があったら、全数をふさがなければなりません。穴になりそうなところがあれば、あらかじめ十分にチェックしなければなりません。
一方の生産性は、低くても気づかれないことがよくあります。5人でできる仕事を7人でやっていたとしても、ユーザーは気づきにくいものです。“システム屋”自身も自分たちの業務生産性向上にまで意識が回らないことがあり得ます。
品質で問題が発生すれば事後のフォローが大変ですから、“システム屋”は経験を積むにつれて品質に対して敏感になっていきます。一方で、低い生産性に甘んじている“システム屋”たちが問題意識を持たないままで経験を積んでいけば、「生産性が低いぞ」と言われても、内心では「こんなものだ」「自分は他の誰にもできない困難な仕事をやっている」と開き直るかもしれません。