IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー

新年度の事業戦略会議において
ダメな“システム屋”の会話 ダメな事業戦略部長 「市場動向を見るに、いよいよ2011年は“クラウド”がお金を生む年になります」
専務 「ふむ。市場動向とは?詳しく説明してくれるかな」
ダメ部長 「昨年は新聞、雑誌、ウェブサイトにクラウドという文字が踊りました。当社顧客からの問い合わせも相当数に上っています。同業のITベンダーはA社がクラウド体制を70名に、B社は100名以上と聞きました」
専務 「なるほど。で、当社の戦略は?」
ダメ部長 「はい。戦略とは他社と違うことを考えるべし、という専務の教えに従い、第1にコンピュータセンターに空きがある3階を『クラウド・フロア』と命名し、第2にインフラ部隊の半分を『クラウド部隊』と呼び替え、コンサルティング部門のメニューに『クラウド専門コンサルティング』と明記します」
専務 「それで?」
ダメ部長 「営業全員に『クラウドパンフ』を配らせ、問い合わせにはコンサルタントが訪問し、海外事情を説明しながら、何が何でもクラウドを売り込むというものです」
専務 「で、それのどこが戦略なのかな?」
ダメ部長 「クラウド・フロアという呼び方は世界でも当社だけでしょう。まあ、端的に言えば、派手にやる、ということです」
専務 「他社との違いは派手だということ?」
ダメ部長 「ええ、超派手にやります!」
専務 「・・・(ダメだこりゃ)・・・」

ダメな理由:何も考えていないに等しい

 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 さて、2010年最後の回(第16回)では、ダメなプロジェクトマネジャー(プロマネ)について述べました。

 新年には、経営陣や幹部が事業戦略を語る機会が多くなると思います。そこで、2011年最初の今回は、ITベンダーやシステムインテグレーターといった“システム屋”の事業戦略について触れたいと思います。

 日本のITベンダーの多くは、1970年代に始まった「産業の情報化」を起点として、常に豊富な需要に恵まれました。目の前の顧客の要望に対応するだけで、継続的な成長を実現できました。この長きにわたった成功体験が“戦略欠乏症候群”とでも呼びたくなるような現状を招いたのです。

 昨年(2010年)は、私自身が多くのITベンダー幹部が「“クラウド”と言っておけ」とか「既に“クラウド”をやっていますと言えばいいんだ」といった発言をしている姿を目の当たりにしました。

 上の会議風景にあるように、他社と違うことを考えるのが戦略です。他社が騒いでいるから自分たちも騒ぐ、あるいはもっと派手に騒ぐといったレベルを戦略とは呼びません。

 従業員100名以上のITベンダーのウェブサイトを見ればどこでも「システム・インテグレーション」「ソリューション」「コンサルティング」と書いてあります。そこに「クラウドコンピューティング」と書き足すだけで何が変わるというのでしょうか。