IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー

プロジェクトマネジャーになった後輩を指導する先輩
ダメな“システム屋”の会話 先輩“システム屋” 「おい、聞いたぞ。やったなあ!」
後輩“システム屋” 「ありがとうございます。今度初めてプロジェクトマネジャーをやらせていただくことになりました」
先輩 「大抜擢(ばってき)だぞ、がんばれよ」
後輩 「はい、精一杯やります」
先輩 「1つアドバイスをしておこうか」
後輩 「はい、実はそれを期待していました。お願いします」
先輩 「ふむ。システム開発のプロジェクトマネジャーは、そうだな、野球監督よりはサッカー監督に近い」
後輩 「え、野球?サッカー?」
先輩 「そうだ。君はスポーツマンだから両者の違いが分かるだろう?」
後輩 「・・・なるほど、そうか。野球の監督はタイムをかけて時間を止めることができますね。しかしサッカーは止められません」
先輩 「ふふふ、さすがだな。その通りだよ」
後輩 「あと、野球の監督はベンチからサインを出して、バントやヒットエンドランなどの指示ができますね」
先輩 「そうだ。野球の監督なら、進行を止めたり、次の行動を指示したりできる」
後輩 「サッカーだと、監督は試合前とハーフタイムに指示を出せますが、試合中はベンチから叫ぶだけです。それも、聞こえているかどうかは分かりません」
先輩 「そうだ。システム開発のプロジェクトマネジャーも、緊急事態なら進行を止めることはできるけれど、ハーフタイムのような区切りの時は別にして、それ以外は時間は止められないものだと考えたほうが実態に合っているだろうな」
後輩 「なるほど。では、システム開発では野球監督のように振る舞うのが最悪なのでしょうか?」
先輩 「いや、違うな。最悪は映画監督だ」
後輩 「え、どういうことですか?」
先輩 「映画監督は、俳優たちの演技が気に入らなければ・・・」
後輩 「・・・何回でもやり直しさせる」
先輩 「そう、その通り。システム開発でそんなことはできない」
後輩 「そうですね。それに、手取り足取りやり直しさせるのでは、次のプロジェクトマネジャーが育つわけがありませんね」
先輩 「はは、分かっているじゃないか。マネジャーは“試合に勝つ”だけじゃなく、人材育成も同時にやらなきゃダメだな」

ダメな理由:プロジェクトにやり直しはない

 以前どこかで、「日本人がやってみたい職業のトップは映画監督」であるという記事を読んだことがあります。俳優たちの演技が気に入らなければ何回でもやり直しさせ、自分の思い通りの作品を創造することができる、といったことがその理由だったかもしれません。

 ずいぶん昔の話であり、今なら本当にそうか分かりません。それでも映画監督はある程度自由に「カット!」と言いながら、撮影の進行を止めることはできるでしょう。

 野球監督は映画監督ほど自由ではないかもしれませんが、「タイム!」と言って進行を止め、ゆったりマウンドへ歩いていき、観客や選手たち全員の注目を集めることができます。

 それに比較するとサッカー監督には「カット」「タイム」がありません。ベンチ前で叫んだり飛び跳ねたりして指示を伝えようとすることはできます。それでも、夢中でボールを追いかけている選手たちがベンチに注目しているとは限りません。

 システム開発などのプロジェクトで、あたかも映画監督のように自由に進行を止めるプロジェクトマネジャー(プロマネ)がいたら要注意です。限られた予算と時間の中で、メンバーに100%以上の力を発揮してもらおうと思ったら、メンバーに任せなければ良いチームプレーは期待できません。緊急事態が発生した時や、「ハーフタイム」のように一斉に進行を止めて確認し合う時間帯を除いては、プロジェクトを止めるわけには行かないはずです。