情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。(毎週月曜日更新)

 前回(第28回)は、公的サービス機関・行政機関が、似たような情報システムを作り続ける理由について解説しました。今回は、公的サービス機関のIT活用が、社会を変える可能性を秘めていることについて述べます。

モデルにこだわるのが評論家の習性

 まず、私自身のちょっと恥ずかしい経験について書きます。2000年ごろ、米シカゴで開催された電子商取引関連のシンポジウムに参加した時のことです。まだグーグル(Google)やアマゾン(Amazon)が世界の注目を集める前で、「ウェブ2.0」「クラウドコンピューティング」といった言葉も登場していませんでした。

 それでも、インターネットを活用した新興企業が米国では数多く成功しつつあり、「電子商取引」「eコマース」といった言葉が流行語になっていました。シンポジウムでは、小さな部屋に世界中から集まった“ネット新参者”を座らせて、米国で成功しつつある人物が自信満々に成功事例を発表する、そんな展開でした。

 野村総合研究所(NRI)で“システム屋”として勤務していた私は、日本代表とでも言うべき意気込みで単身乗り込みました。何か1つ質問しようと思い立ち、ある発表者に向かって「そのモデルはB2C(ビジネス・トゥー・コンシューマー=法人対消費者のサービス)ですか、それともB2B2E(ビジネス・トゥー・ビジネス・トゥ・エンプロイー=法人対法人対従業員のサービス)ですか?」と聞いてしまいました。

 発表者は瞬間湯沸かし器のように顔を赤くして、私を怒鳴りつけるように言いました。「そんなことはどうでもいい。我々は社会を変えるために考えているのであって、どのモデルがいいとかは関係がない。そんなことは評論家が後から言っているだけの話だ」と。正論でした。

 この時以来、情報システムを企画する時は、細かなモデルにこだわるのではなく、社会や組織を変えるという視点で考えるようになりました。こうした視点は、公的サービス機関で情報化を考える立場では企業以上に重要だと思います。公的サービス機関の情報化は、好むと好まざるとにかかわらず、すべての国民・住民やその業界内の企業に影響を及ぼすからです。