情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。
野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。(毎週月曜日更新)
前回(第24回)は、成長が行き詰まった「停滞企業」が“ユーザー企業”としてIT(情報技術)活用を考える時には、「アイデアキラー」と戦いながら「新事実」を追求すべきだと書きました。
今回は、第2のキーワードである「新技術」について説明します。
ここで言う新技術とは、IT分野の新技術を指します。停滞している企業には、IT分野の新技術に関する、いわゆる耳年増が多数います。定例会議などでも、バズワード(流行語)が飛び交います。「ウェブ2.0で売上高を伸ばすべき」とか「今だったらクラウドコンピューティングだろう」といった具合です。
質問するだけして動かない“ユーザ企業”
こういう企業にITベンダーが新技術・新サービスの説明に行くと、大勢の聴衆に囲まれることになります。「もしかすると関係するかもしれない」と考えた部署からも出席者があり、質問も数多く、踏み込んだ内容のものが飛び出します。
ITベンダーにとって、大勢の人が集まり、質問が数多く出るとなれば、感触は悪くありません。しかし、賢いITベンダーであれば「この企業は買ってくれないな」と直感するものです。
停滞している企業にいると、社内に新しいことが少ないわけです。だからこそ、刺激を求めるかのように、社外の新技術情報などに対する感度が鋭くなります。そして停滞が長期化すると、社内は評論家、すなわち耳年増であふれ返ります。社内“IT耳年増”たちは、あれこれ情報収集しようとしたり、議論したりはするものの、実際に新技術を購入するとなるとしり込みするのです。
私が、停滞している企業に言いたいのは「新技術追求は止めよう」「むしろ、新技術を売り込みに来たITベンダーやITベンチャー企業そのものに関心を持とう」ということです。
ITベンチャー訪問で得られる刺激
世の中には、「ITが世界を変える」と本気で考えている人がいます。米シリコンバレーだけではなく、日本にもこういう人がいます。彼・彼女らの会社はまだ小さいかもしれません。成長のきっかけをつかめていない場合もあります。しかし彼・彼女らは停滞していません。
私たちのような日本に住んでいる人は、成熟社会が当たり前だと感じています。こうした人たちが発展途上国に行き、未成熟ながらも活気ある社会を目の当たりにすると、大きな刺激を受けることがあります。
新技術を持つITベンダー・ITベンチャーと接することは、これに似ているかもしれません。停滞企業が、ITベンダーを呼び出して自社の会議室で情報収集するだけで知識を増やしている様子は、居間に座ってテレビを見るだけで物知りになった気になっているのと同じです。それでは変化を及ぼすような刺激はありません。それよりも彼・彼女らのホーム・グラウンドを訪問し、そこの空気を吸ってみてはどうでしょうか。何らかの刺激を受けるかもしれません。