情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 第15回から、急成長中の“ユーザー企業”における情報システム構築やIT(情報技術)活用のためのポイント3つを説明しています。第16回第17回では、第1のポイントである「情報化推進者」について書きました。

 今回は第2のポイント、「費用対効果ならぬ時間対効果」について書きます。

 費用対効果(Return on Investment=ROI)という言葉はとてもよく使われます。投入する費用=コストと、それに対する効果を比較して判断しようというものです。費用は金額で表しますから、効果も金額で表そうとします。

 例えば初期投資が3000万円で年間費用が1000万円の場合で、この投資による年間収入が1000万円、2000万円、3000万円と次第に増加するならば、3年間で回収できる、と計算します。(3000万円+1000万円×3年=6000万円、1000万円+2000万円+3000万円=6000万円)

 これは金利を無視したケースですが、費用も効果も金額で表すことによって、費用対効果は比較的容易に算出できます。

 一方で、「時間対効果」は、費用対効果ほど一般的な言葉ではないかもしれません。成長企業にとっては時間はきわめて重要な要素です。しかしながら、投入する時間と効果を比較することは、実は容易ではありません。

“接待”の効果を何で測るのか?

 簡単な例で説明します。

 接待ゴルフや高級飲食店での接待は、景気が悪くなると「費用対効果が悪い」ということになり、多くの企業・組織で自粛ムードが高まります。しかし、これらについては「時間対効果はどうなのか」と考えるべきです。接待の時間を持つことによって、数カ月かかる商談がその場でまとまったり、平日日中に何度も訪問しなければ話し合えない内容をその日のうちに話し合えたりすることもあるのではないでしょうか。

 接待であっても、情報システムの構築であっても、企業・事業におけるあらゆる活動の効果は、測定が容易ではないものばかりです。費用対効果と言うと、費用が金額換算できるために、効果も金額換算して比較できるだろう、という錯覚に陥ります。しかし、効果をすべて単純に金額換算できるという考えは正しくありません。