情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 前回(第15回)は、成長企業である“ユーザー企業”がIT(情報技術)を上手に活用するうえで重要なポイントを3つ示しました。「情報化推進者について」「費用対効果ならぬ時間対効果について」「ワーストシナリオ回避ではなくベストシナリオ追求の姿勢について」の3つです。

 今回は第1のポイントである情報化推進者について説明します。

経営者が抱きがちな情報システムへの不満

 成長企業には、他社とは異なる強い個性があります。それが“成長要因”として他社との差異化を実現しているからこそ、成長を続けているのです。「ウチはスピードが違う」「お客様のクレームがヒントなんだ」「営業を科学するのがモットーだ」といった経営者の方針・自負に社員たちが賛同し、さらに強化しようとしているところに強みがある。これが成長企業の姿です。

 しかし言葉では全員が賛同しているように見えても、行動が伴わない組織、阻害要因を内部に持つ企業も少なくありません。

 日本では、経営者や経営幹部自身がIT・情報システムの勘所をつかんでいる例は極めてまれです。むしろ多くの場合、経営者・経営幹部は情報システムに対して「コストがかかりすぎる」「対応が遅い」といった、様々な不満を持っているものです。

“成長要因”を強化するのが情報化推進者

 こうした状況の企業に、1人の情報化推進者がいる場合を想定してみます。社内の人かもしれないし、社外かもしれません。CIO(最高情報責任者)と呼ぶべき役職者かもしれませんし、有能な課長補佐レベルかもしれません。社外であれば、システム会社の重役かもしれないし、開発責任者、営業担当者、コンサルタントかもしれません。

 成長企業の“成長要因”を、情報化によってさらに強化するアイデアを持ち、さらにその実現を推進できる人材、この人材を情報化推進者と呼んでみましょう。経営者の不満を解消しつつ、アイデアを具体化できる推進者がいる場合と、いない場合では大きな違いが生まれます。

 以下に、事例を挙げます。サービス業で、年商数百億円、業界トップ10に入ったばかりの急成長段階にある“ユーザー企業”がありました。「これからは情報システムが重要だ」と考えた事業部長が、それまで付き合っていたシステム会社では限界があると考え、大手システム会社数社に声をかけ、新システム開発のコンペティションをやろうと決めました。