月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』と東京コンサルティングが共同で事務局を務める「オールジャパン競争力強化実行委員会」は、情報システムユーザー企業のCIO(最高情報責任者)が、情報システム提供企業に対して抱く疑問を「CIO公開質問状」として質問した。クラウドサービスを提供するIT(情報技術)ベンダー主要8社が公開質問状に回答した。本記事では、グーグル(米Googleの日本法人、東京都渋谷区)の藤井彰人エンタープライズ プロダクト マーケティング マネージャーが、「クラウド」に関する疑問に回答する。
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質問3:情報保護・保証の考え方
Q:顧客企業のデータの保護・セキュリティーをどのように確保しているか。万が一の事故の場合の保証についてどう考えているか。
A:SAS70認証を取得し、24時間365日守る体制がある。
企業向けにはSLA(サービス・レベル・アグリーメント)を提示している。「SAS70(米国監査基準第70号)タイプII」の認証も取得している。強力なセキュリティー専門チームも持っており、取り組み内容をホワイトペーパーとして開示している。通常の企業が自社でデータを管理するのに比べれば、かなり良いサービスを提供できていると考えている。
稼働率に関しては、「プレミアム・エディション」というサービスでは、追加料金を頂く代わりに99.9%の稼働を保証し、システム停止が起きた場合の対応なども含めたSLAを提示している。
当社の場合、テクノロジーについては基本的にすべて自社開発なので、他社製ソフトウエアに起因するセキュリティー問題と言うのは一切ない。個人向けサービスも含めたGoogle.com自体を24時間365日体制で守るチームを組んでいるのも当社の強みになる。
質問4:標準化・オープン性確保の考え方
Q:クラウド業界の標準化・オープン性確保についてどのように考えているか。
A:グーグル自身が主導して閉じたデータ環境を作ろうとは考えない。むしろ「データ・リベレーション(開放)」を重視している。
グーグルはGoogle Appsでもその他のサービスでも、様々なAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)を提供して、ほかのサービスや情報システムと連携できるようにするという考え方を取っている。グーグル自身が何かの標準化を主導するというのは変な話だ。
この考え方は「データ・リベレーション(開放)」と呼んでいる。データを開放する、つまり、「クラウド側に行ってしまった途端に二度と取り出せなくなるような事態は防ぐ」ことを目指している。そのために、Google Appsからデータをどうやって取り出せるかといった情報を積極的に開示している。これによって、ユーザー企業側が当社に“ロックイン(囲い込み)”されないことを担保している。既存システムやほかのサービスとの連携にも有利なはずだ。
例えば、Google Appsに保管してある電子メールデータは、全部POP3やIMAP(メールを扱うインターネット標準のプロトコル)で取り出せる。スケジュールデータはiCal(米アップルが策定したスケジュール管理形式)などで取り出せるし、そのほかのデータもCSV(カンマ区切りテキスト)などで取り出せる。まだ不完全な部分もあるが、今、一生懸命機能改良に取り組んでいるところだ。今後も、グーグル側で保管しているすべてのデータをAPIで取り出してユーザー企業が自由に使える環境を作ることを原則としていく。
質問5:ユーザー企業に伝えたいこと
Q:ユーザー企業に伝えたいことは。
A:セキュリティーには自信。各社独自の管理ポリシーにも対応していく。
大企業のお客様にとっては、グーグルにデータを預けるということはまだまだ不安だという意見は多いかもしれない。それは我々の伝え方が足りていない。セキュリティーなどに関してものすごく努力していることをもっと伝えていかなければならない。
それからグーグルにデータを預ける以前から、大企業は既に電子メールのデータなどは他社サービスや他社データセンターに預けているはずだ。そこのセキュリティーがどうなのか、稼働率がどうなのかということも考えていただきたい。
ワンタイムパスワードによる認証、文書の長期間保管など、企業独自の情報管理ポリシーについて、当初のGoogle Appsではうまく対応できていなかった。富士ソフトなど日本のITベンダーと協業し、そのあたりを強化しているところだ。
グーグル エンタープライズ プロダクト マーケティング マネージャー
オールジャパン競争力強化実行委員会とは
情報システムの有力ユーザー企業18社のCIO(最高情報責任者)およびCIO経験者で構成する組織。IT(情報技術)ベンダーに対して、CIOの率直な疑問を「CIO公開質問状」として発信する活動を展開。CIO側の疑問の理解と、ITベンダー側の改善努力を促し、IT活用を通じた日本企業の国際競争力向上につなげることを目指す。
事務局は、月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』編集部と、東京コンサルティング代表の石堂一成氏が共同で務める。それぞれ、CIOが参画する中立的な勉強会である「日経情報ストラテジー CIO倶楽部」と「CIOネットワーク・ジャパン」を主宰している。この2つのコミュニティーに所属するCIOを中心とする18社で委員会を構成する。
メンバー企業名(50音順):
旭化成、オムロン、オリックス、カシオ計算機、サントリーホールディングス、JFEスチール、新日本石油、住友電気工業、セブン&アイ・ホールディングス、損害保険ジャパン、電通、東京ガス、東芝、トヨタ自動車、パナソニック、富士ゼロックス、三菱ケミカルホールディングス、森永乳業