PMOとプロジェクトマネジャの大きな違いの1つに、「PMOは組織として機能しなければならない」という点がある。PMOの重要なミッションは、決して属人化させずに、いつもPMOという組織が同じサービスをプロジェクトに提供できる体制や仕組みを作ることである。PMOが実施する作業を「プロジェクトに提供するサービス」と捉え直すなら、PMOの機能要件が見えてくる。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 読者の皆さんは、PMOに何が求められていると思うでしょうか。私見ですが、プロジェクトにおいてPMOは、進捗管理や課題管理、変更管理、会議のファシリテーション、次の工程の準備など、いわゆる「プロジェクトメンバーが気持ちよく作業できる環境を提供すること」にあると考えています。逆の言い方をすれば、その環境を提供できなければプロジェクトは円滑に活動できなくなってしまうでしょう。その意味では、PMOはプロジェクトを実施するための“インフラ・サービス”を提供すると言っても過言ではありません。

 ここで、PMOに求められる重要なことは、「PMOは組織として機能する」という点です。もう少し具体的に説明すると、「PMOはいつでも必要なサービスを同じサービスレベルでプロジェクトに提供できなければならない」ということです。

PMOは、機能停止してはならない組織

 先ほども述べた通り、PMOを「プロジェクトに“インフラ・サービス”を提供する組織」とするなら、PMOが機能停止してしまうと、プロジェクトの活動に支障が生じます。そこで、PMOの機能を継続させ、さらに活性化させるために重要なポイントは以下の3つです。

(1)属人的なサービスをなくす
(2)同じサービスを“仕組み”として提供できるようにする
(3)個人ではなく組織としてのサービス提供の観点を持つ

 (1)については、改めて言うまでもありません。例えば、PMOのAさんが風邪で休んだからといって、「今日は進捗状況を把握できないので、進捗会議はやりません」とは行かないでしょう。Aさんが休んだ場合には、PMOのBさんが代役を務められるように、日ごろから準備しておかなければなりません。

 ただし、特定の課題に対する解決や次工程の計画書作成など、どうしても属人的にならざるを得ない作業も出てくると思います。その点については、プロジェクト運営への影響の大きさを考慮すべきです。つまり、「日々のサービス提供が停止したら、すぐにプロジェクト運営に支障が出るのか」、それとも「ある程度サービス提供が止まっても大丈夫なのか」を判断して、プロジェクト運営に支障を来たさないための「最低限のサービスレベル」を決めておく必要があります。

 (2)の「同じサービスを“仕組み”として提供できるようにする」とは、(1)の「属人的なサービスをなくす」ための仕組みを構築することです。第62回の「トラブル対応に必要な“余裕”をどう作る?」でも述べたように、可能な限り作業を自動化し、PMOメンバーの誰でも、同じサービスレベルを提供できるような環境をあらかじめ用意しておく必要があります。

例えば「1人は嫌われ役、ほかの人は献身的」という組織力

 (3)の「個人ではなく組織としてのサービス提供の観点を持つ」については、まず具体例を示したほうが分かりやすいかもしれません。例えば第61回の『「嘘ではないが、真実でもない」報告を見抜くには』では、PMO内部での役割(機能)分担について触れました。PMOメンバーのうち1人は、多少嫌われても「プロジェクト成功のために嫌なことを言う」役割を演じ、一方、ほかのメンバーは献身的にプロジェクトメンバーの相談に乗ったり、進捗報告の後で一緒に対応策を考えたりするような役回りをする、といったことです。

 このように、「PMOの組織力を駆使してプロジェクトを運営していく」という意識を強く持ち、組織力を生かしたプロジェクト運営手法を徹底的に考え、議論していくことが重要です。その際、PMOの組織だけにとらわれず、必要に応じてプロジェクトマネジャや上位組織を巻き込む視点も忘れてはいけません。プロジェクトマネジメントの組織力が大きいほど、プロジェクトを成功に導く力も大きくなります。


後藤 年成(ごとう としなり)
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP
 大学卒業後,ニッセイコンピュータ(現ニッセイ情報テクノロジー)に入社。システム・エンジニアとしてホスト系からオープン系にいたる幅広いシステム開発を経験した後,2002年から野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントに携わる。2007年,マネジメントソリューションズに入社。「知恵作りのマネジメント」を支援するPMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp