米GoogleがWebブラウザ「Chrome」をリリースしたのは,ほぼ9カ月前だ(関連記事:Google,オープンソースのWebブラウザ「Google Chrome」を公開へGoogleがWebブラウザ「Chrome」の正式版を公開)。筆者はその時点で,Googleがいずれ完全なデスクトップOSを出すと考えた

 これに対し,同社はそれほど間を置かずに「Google Chrome OS」を発表した。同OSは当初ネットブック向けに提供される。つまり,x86およびARMアーキテクチャを含め,最近のハードウエアならほぼ例外なく動かせるということだ。

 Googleによると,Chrome OSはLinuxカーネルをベースとしており,電源投入から数秒でインターネット接続できることを目指しているという。最新のWebアプリケーションを動かすことが可能ということは,あちこちで目にするようになった「Google Apps」などの高機能なAjaxコンテンツに対応しているのだ。

 筆者は,Googleがこの延長線上で「Wine」にも興味があると睨んでいる。Wineとは,Linuxデスクトップ上でWindows用アプリケーションを動かすためのフリー・ソフトウエアだ。

 大雑把に表現すれば,「Chrome OS」は「米Microsoftの終焉」と解釈できるかもしれない。この解釈が適切かどうかは,未来をバラ色のサングラスで眺めるか,虫眼鏡で観察するかによって変わる。

Chrome OSはWindowsの脅威となり得る存在

 Googleは,WebブラウザであるChromeのユーザー数が3000万人を超えたとしている。筆者の個人的意見だが,Chromeに向いているユーザーは,シンプルで最小限の機能しかないWebブラウザを求めている人だけだ。Chromeが高く評価されている主な理由は,「JavaScriptの処理が本当に速い」という点である。確かに今後Chromeは主要Webブラウザの1つになるだろう。ただし,今すぐにというわけではない。

 筆者としては,3000万人が飾り気のないWebブラウザを選んだのなら,同じようにあっさりしたOSを使おうとする人も多いだろう,と思う。しかも,メンテナンスの必要がほとんどないのだからなおさらだ。

 「Chrome OSなどWindowsの相手にならない」と本気で考えているのなら,その根拠となる理由をきちんと考え直した方がよい。例えば,Googleの検索エンジンがここまで大きな力を持つと予想した人は比較的少なかった。ところが現在Googleは検索市場をほぼ手中に収めており,同社の支配体制を脅かしそうなライバルは存在しない。

 さらに,かつてのMicrosoftの行動を覚えている読者もいるだろう。米Sun Microsystemsが10年以上前にJavaをリリースした際,Microsoftは心底から(しかも巧妙に)興奮状態となった。というのも,Java自体がデスクトップ用OS環境そのものになる可能性を備えていて,Microsoftの人々はそのことをはっきり認識していたからだ。したがって,Microsoftの幹部はChrome OSを笑い飛ばそうとしているようだが,間違いなく同社は脅威とみなしている(関連記事:MicrosoftのBallmer氏,「Google Chrome OSなんてお笑いだ」と語る)。

 最後に書いておきたいことがある。Chrome OSがほかのLinuxディストリビュータの脅威になるという意見はあるが,筆者はそう思わない(関連記事:Google,新OS「Chrome OS」でWindowsに挑戦)。Linuxプラットフォームはすでに数多く存在しており,同じ市場でお互いにうまくやっている。それに種類が多いほど楽しい。選択の自由度,革新に対する自由な姿勢,多様性こそ,オープンソースの重要なポイントなのだ。ところがMicrosoftは間違いなく脅威に直面する。Chrome OSをリリースしたGoogleは,Microsoftを選ぶという立場を難なく手に入れる可能性がある(関連記事:記者の眼 特別編:「Chrome OS」私はこう見る)。

 注記:GoogleはChrome OSを「2009年終わりごろ」開発者向けにリリースする計画としている(Google公式ブログへの投稿記事)。