データセンターとはどのようなところか,イメージできるようになりましたか。少し分かってくると,具体的にどんなサービスを提供してくれるの? どこにあるの?といった疑問がわいてくるかと思います。

 今回はデータセンターが提供するサービスを紹介します。データセンターのサービスには,大きく分けると「ハウジング・サービス」と「ホスティング・サービス」の2種類があります。

 ハウジング? ホスティング? いったい何のことでしょうか。早速,この二つのサービスの概要や違いを説明しましょう。

ハウジングはスペース貸し

 ハウジング・サービスとは,サーバーやネットワーク機器の稼働に必要な電源や通信環境が整ったスペースを貸し出すサービスのことです。利用者は,サーバー・ラックと呼ばれる専用の箱やたなに,自社のサーバーを預けます。第1話の「何をしてくれるところか」で説明したように,一般的なものにたとえると,「銀行の貸し金庫」のような役割です。

図1●契約したスペース内に,機器を自由に設置できる
図1●契約したスペース内に,機器を自由に設置できる

 サーバー・ラックは,小型冷蔵庫ほどの小さなものから大きなタンスぐらいのものまであり,収納する機器の台数などに応じて使い分けられています。機能面では,扉にかぎが付いたものや,耐震設計のものなど,さまざまなものがあります。  契約したスペース内であれば,ハウジング・サービスの利用者は自由にサーバーやネットワーク機器を設置できます(図1)。ただし,利用者がそうした機器を準備する必要があります。

 サーバーやネットワーク機器が必要とする電源や,インターネットへの通信環境はデータセンター事業者があらかじめ用意しています。利用する電力,回線の太さ(帯域)によって利用料金が変わるので,どの程度の電力や回線帯域が必要なのかについて,おおまかに把握しておく必要があります。

 データセンターによっては,設置した機器の稼働監視,正常か異常かを示すLEDランプの状態確認,データ・バックアップの確認など管理作業の代行サービスをオプションで提供しています。こうしたサービスをうまく利用すると,サーバー管理者の負担を軽減できます(図2)。具体的にどのようなサービスが用意されているのかについては,データセンター事業者に確認すれば教えてもらえます。

図2●代行サービスを利用すれば,管理者の負担を軽減できる
図2●代行サービスを利用すれば,管理者の負担を軽減できる

ホスティングは機器ごと貸し出し

 ホスティング・サービスとは,ホームページや電子メールのメール・ボックスなどを設けるためのサーバー機能とディスク・スペース,インターネット接続環境を貸し出すサービスです。ディスク・スペースだけを貸し出すサービスは,一般に「ストレージ・サービス」と呼ばれ,ホスティングとは区別されます。

 ホスティング・サービスには,複数の利用者が1台のサーバーを共有する「共有型ホスティング・サービス」と,1人(1社)の利用者が1台のサーバーを占有する「専用ホスティング・サービス」があります。専用ホスティング・サービスの場合は共有者がいないのでサーバー設定などの自由度が高くなる半面,利用料が共有型ホスティング・サービスより高価です。

 ハウジング・サービスと比較した場合のホスティング・サービスのメリットは,利用者がサーバーやネットワーク機器を用意しなくても済むので,利用開始時のコストを抑えられることです。ただし,サーバーやネットワークのハードウエアは自由に選べず,データセンター事業者が選定したものを利用することになります。Webサーバーやメール・サーバーなどのサーバー・ソフトウエアについても,あらかじめ導入されているものしか使えないといった制約を受けることがあります。

2種類のサービスをどう使い分ければよいか

 ハウジング・サービスやホスティング・サービスの実際の使われ方に基づいて,小中規模の企業はこれら2種類のサービスをどのように使い分ければよいのか,説明します。

 ホームページとメール・サーバーのみをデータセンターに置きたいのであれば,ホスティング・サービスの利用を勧めます。自社にサーバーを置く場合と比べ,メンテナンスや管理面の業務負荷が大きく軽減しますし,セキュリティも大幅に強化されます。自社に設置したサーバー上のホームページでネット・ショップを展開している場合でも,さほど手間をかけることなくホスティング・サービスに移行できることが多いので,データセンター事業者に相談してみるとよいでしょう。

 自社固有のWebアプリケーションが存在して,それをホスティング・サービスに移せない場合には,ハウジング・サービスを選択することになります。多くのデータセンターでは,一つのラック・スペースを1社にすべて貸し出すだけではなく,全体の1/2,あるいは1/4もしくは1/8単位に貸し出すサービスも提供しています。設置するサーバーやネットワーク機器のサイズに合わせ,適切なスペースを借りる契約を結ぶとよいでしょう。

 なお,データセンターを利用する際は,受けるサービスがハウジング・サービス,ホスティング・サービスのいずれであっても,違法行為を禁じるなどのために設けられた規約をよく読んで理解することが大切です。データセンターは多くの企業が利用する共用施設なので,皆がモラルを守る必要があるのです。

こぼれ話:データセンターのコア・サービスは何?

 データセンターのサービスは,ニーズの多様化や技術の進歩を背景に,高度化しています。現在では,仮想化技術の進化によって一つのハードウエアを論理的に分割するなど,物理的なシステム・リソースを共有するサービスの整備が急速に進んでいます。

 しかし,サービスをどんなに拡充したとしても,データセンター事業者が最重要視し続けるサービスの方向性は不変です。それは,「利用者のデータを守る」こと。利用者の夢や希望,人の思いの詰まった宝箱であるサーバーを守り,利用者の笑顔を増やしていく。そんなサービスを続けて行きたいと思っています。

小林 敬明
リコーテクノシステムズ ITマネージド本部 EMS運用センター EMS運用部 ネットワーク運用グループ リーダー
EMS運用部は,リコーが提供しているデータセンター・サービス「ITKeeper EMS(エンタープライズ・マネージド・サービス)」の運用部門。ネットワーク運用グループは,データセンターのネットワークにとどまらず,リコー・グループ全社のネットワーク網およびリコー事業所内LANの運用管理も担うネットワークのプロ集団。小林氏は運用管理設計の経験が豊富なネットワーク系エンジニア。ネットワーク運用グループのリーダーとして,ネットワークのライフサイクルを管理している。