米大統領選の民主党候補指名争いで,Barack Obama氏の勝利が近づいてきたと言われている。当初,知名度や資金力で圧倒的にHillary Clinton氏と開きがあったObama氏だが,選挙戦が進むにつれて支持者の勢力が拡大,Clinton氏を資金難へと追い込むなど,その台頭ぶりはすさまじい。世間を味方につける演説力など,その才能が人々を魅了するとも言われているが,同氏の成功の秘訣(ひけつ)はそれだけではない。そこには巧みなネット戦略があり,これまでになかったネットの力がこの選挙戦で大きく働いていると言われている。

ネットで1000億円を集めるオバマ氏

 BBC Newsの5月22日付け記事によると,近年インターネットは,米国の政界にとって,重要な意味を持つ存在になっており,今回の大統領選はそれが顕著だという。それは選挙戦当初からObama氏がとってきた戦略に見ることができるという。

 2004年の大統領選で共和党選挙運動のインターネット戦略部門ディレクターを務めたMichael Turk氏の分析によれば,Obama氏がインターネットで集める寄付金の額は膨大で,同氏が2008年に集められる金額は10億ドル(約1050億円)にも及ぶという。これは2004年にJohn Kerry氏がネットで集めた金額の12倍。またObama氏には,200万人の支持者がボランティアとして選挙運動に参加しており,彼らが投票呼び掛け運動を行っている。“地上戦”において重要な役割を果たしているという(BBC Newsに掲載の記事)。

準備万端,Webサイトは初めからできていた

 Obama陣営のネット戦略は用意周到に準備されていた。選挙戦のスタート時点から,同氏のWebサイト(barackobama.com)は完全な形でできあがっており,フル機能が実装されていたという。支持者同士が容易に集えるように支援する機能,組織作りを手助けするツールなども用意した。クレジットカード決済で手軽に寄付が行えたり,ボランティアの参加申し込みも簡単にできるようにした(写真1)。

写真1●Obama氏選挙運動の公式サイト   写真1●Obama氏選挙運動の公式サイト
開設当初からさまざまな機能を実装。Web 2.0のサービスも積極的に活用する。
[画像のクリックで拡大表示]

 Michael Turk氏によれば民主党は,先の大統領選挙における共和党のインターネット戦略を十分に研究し,それをObama戦略につなげたという。大統領選は長期にわたるし烈な戦い。インターネットはその強力な“兵器”として位置付けられるようになっている。ライバル陣営の開発者との兵器開発競争にいかに勝つかが選挙戦の鍵を握るという。

 ネット戦略で好調なスタートを切り,支持者も寄付金も増やしたObama氏は,Clinton氏よりもいち早く地域のボランティアを増やすことができ,とりわけ小さな選挙区で有利となった。この初期の成功が波及し,やがて大きなうねりになったという。大口の寄付に支えられていたClinton氏はやがて資金力不足に陥ったが,Obama氏にはそうした問題はなかった。その大きな理由がネットだ。

MySpaceやFacebookに登場

 Obama氏の選挙戦の大きな特徴は,MySpaceやFacebookといったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を取り込んだことにあると言われている。中でもFacebookは,大学生をはじめとする若者に人気が高いSNS。有志によって作られた同氏のページには,2008年5月29日現在,86万人以上の支持者が登録されている。これまでは新たな支持者を集めるには,電子メールが中心だったが,昨今のSNSの普及によってその姿は大きく様変わりした(写真2)。

写真2●若者に人気のSNS「Facebook」のObama氏のページ   写真2●若者に人気のSNS「Facebook」のObama氏のページ
86万人以上が支持者登録している。
[画像のクリックで拡大表示]

 メールでWebサイトに誘導するのとは,まったく違う効果がこうしたSNSの力によってもたらされたのだ。Facebookを利用する若い高学歴層からの支持を得ることは,浮動票の獲得につながり,本選挙で有利に働くという(関連記事1:MSが150億ドルと値踏みした新興SNS「Facebook」の魅力/関連記事2:mixiの20倍以上,7000万人超の会員を誇る米国の最大手SNS「MySpace.com」とは?)。