PMOが実践すべきManagementとは,決して“お役所的な管理(Control)”にとどまっていてはいけない。PMOには,現場に下りて,意思決定に役立つ情報提供や生産性向上のための活動が求められている。こうした積極策が,プロジェクトのManagement品質を高めるための第一歩になるだろう。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役


 PMO(Project Management Office)は,日本語では「プロジェクト管理オフィス」と訳されることがあります。この日本語訳に文句をつけるつもりはありませんが,「管理」という言葉の響きがいかにも“お役所”的な仕事を連想させるため,その点では大きな違和感を感じます。皆さんも,「管理」と「マネジメント」の持つ響きの違いを理解し,それぞれ無意識に使い分けていることと思います。私は,日本語の「管理」の意味は,Managementではなく,Controlに近いと考えています。やや哲学的に聞こえるかもしれませんが,以下の解釈が非常に参考になると思います。

 「マネジメントとは,正しいことをするという意味である。これに対し,コントロールとは,ことを正しくするという意味であり,マネジメントとは違う。日本企業は一般に,コントロールについては卓越しているが,マネジメントの仕組みを真に確立しているとは言い難い。仕組みを確立するにあたっては,包括的なマネジメント体系を取り入れる必要がある。それがプロジェクトマネジメントである」。日本企業にとってプロジェクトマネジメントが必要な理由を,プロジェクトプロの峯本展夫代表はこう説明する――。

第一歩は,マネジメントの意思決定に生かすことから

 「マネジメントとコントロールは違う」という記事からの引用ですが,PMOに関しても正に同じことが言えます。定型的な管理業務なくしてマネジメントの意思決定は行えませんが,単に決められたルールに従って管理業務をこなすだけなら,それはPMOではなく,PCO(Project Control Office)と表現すべきでしょう。現在プロジェクトマネジャからもプロジェクトメンバーからも“管理屋”としてしか見られていないPMOは,PCOから真のPMOへ進化すべきです。「PMOが乗り越えるべきもの」という記事で述べられているような「“ありがたみ”のある組織への脱皮」が必要です。

 では,具体的にどのように脱皮すべきなのでしょうか。

 難しく考える必要はありません。これまで管理してきた内容を,マネジメントの意思決定に利用していくところから始めてみればいいでしょう。例えば課題管理なら,管理票のテンプレートを渡して起票させ,ステータスを確認するだけでなく,遅延している課題の原因分析や課題解決のためのミーティングを開催したり,プロジェクトマネジャに対して迅速にレポートを出したりすることも脱皮へ向けた第一歩となります。

 また,PMOはもっと現場に下りて行ってみてはどうでしょうか。プロジェクトの現場では管理工数をできるだけ減らしたいと思っていますが,ときには現場の生産性を向上させるための積極策も必要です。PMO自らが現場の生産性向上に率先して取り組めば,PMOは頼られる存在となり,”ありがたみ”のある組織となることでしょう。

リスクを最小限に抑えつつ,リスクを取りにいく

 もちろん,あまり手厚くサポートしすぎると,今度はPMOの管理工数がひっ迫してきますが,それを恐れてしまうと何も前に進みません。何かを成し遂げるために取るべきアクションがあれば,「リスクを最小限に抑えつつ,リスクを取りにいく」。これがマネジメントに本質的に求められていることです。

 P.F.ドラッカー氏は著書『現代の経営』の中で,「マネジメントとは,現代社会の信念の具現である。それは,資源を組織化することによって,人類の生活を向上させることができるとの信念である。経済が福祉と正義の実現の強力な原動力になるとの信念の具現である。想像力だけの哲学や形而上の体系を築く者ではなく,一葉の草しか育たなかったところに二葉の草を育てる者が,人類の福祉に貢献する者であるとの思想の具現である」と述べています。

 マネジメントは机上の学問ではなく,成果をなすべき実務です。真のプロジェクト・マネジメント・オフィスとなるためには,プロジェクトマネジャと同じ視点で考え,現場レベルのことにも手を下す。そのような心意気が必要なのではないかと考えます。


高橋信也(たかはし しんや)

 1972年福岡生まれ。修猷館高校を卒業した後,上京。上智大学経済学部卒。ゼミは組織論,日本的経営の研究。大学卒業後,アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験した後,2001年よりキャップジェミニのマネジャとして経営管理・業績管理のコンサルティングプロジェクトに携わる。

 コンサルタントとしての外部の目からだけではなく,内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから,SONY Global Solutionsへ入社。その当時,最年少プロジェクトマネジャとなる。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。インドにおけるオフショア開発を経験。

 コンサルテーションから,自社開発のソフトウエア提供,改革実施後のチェンジマネジメントまで,「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズを設立し,現在に至る。連絡先は info@mgmtsol.co.jp