2年くらい前,システム開発を手がけているITベンダーの決算説明会を取材したり,決算関連資料を読んだりすると,「PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)による不採算案件の受注前審査により,営業利益が○○億円改善しました」という話をよく聞いた。見積もりやプロジェクト・マネジメントのエキスパートが案件を厳格に審査し,赤字になるリスクが高いと判断した案件の受注を拒否した結果,大手ベンダーでは数十億円もの赤字回避に成功したのだ。かなり華々しい成果である。

 それ以来,PMOに注目しているが,ここに来てPMOの専門家からは「来年あたりから,PMOには大きな試練が待っているのではないか」という声も出てきている。

PMOの真価が問われるとき

 PMOは,大まかに言えば「プロジェクト(特にプロジェクト・マネジャ)を支援する,プロジェクト・マネジメント専門の常設組織」である。赤字撲滅のため,客観的な立場でプロジェクトを点検し,問題が見つかれば即座に助言や立て直しをするなど,早期に手を打つのが主な任務となっている。プロジェクト管理標準の普及やプロジェクト・マネジャの育成を担うこともある。いまや,大手ベンダーなら,ほとんどがPMOを設置していると言われている。

 ただし,「PMO」という仕事には実にさまざまな解釈があって,各社各様の取り組みをしている。そのため,「ここからここまでがPMOの仕事」と明確に示せるような定義は存在しない。どのITベンダーも手探りの状態といえる。

 それゆえに,PMOの専門家にはその実際の活動内容が不十分に映るようだ。ITベンダーの経営環境が変われば,ほころびが一気に表面化するのではないかと懸念している。

 というのも,「不採算案件の受注前審査」でPMOが名をあげたころから現在まで,金融業界を中心にシステム開発の特需があり,元請けのITベンダーにはリスクの小さい案件を選ぶ余地があった。しかし,これから特需がひと段落すれば,ユーザー企業からのコスト削減圧力が再び強まり,安全な案件ばかりを選んでいられなくなる可能性がある。経営環境がこのように変化して,赤字すれすれのプロジェクトが増えたとき,今の形のPMOで十分に機能するのかどうか,真価が問われるというのである。

“ありがたみ”のある組織への脱皮

 実態として,PMOは多かれ少なかれプロジェクト・マネジメントに寄与してはいる。無駄なPMOは存在しない。問題は,PMOとしての役割や取り組みがいろいろあるように,その寄与レベルにも大きな差があり,残念ながら多くのPMOが寄与レベルの低いタイプであるということだ。

 多様な役割を担ったPMOを単純に比べられないが,うまく行っているPMOとそれほどでもないPMOには,それぞれ共通点がある。それは,PMOが「管理」する組織なのか「支援」する組織なのか,という点である。どちらも「プロジェクトに危険な兆候がないか目を配り,何かあれば早期に手を打つ」というミッションそのものは同じだが,アプローチが異なる。プロジェクトにほぼ常駐するタイプのPMOで例を挙げてみよう。

 管理型のPMOは,プロジェクトに管理標準を導入し,進捗データなど各種の管理情報をきっちり収集して,「このチームに遅れが出始めている。早く手を打ったほうがよい」などとプロジェクト・マネジャに助言している。それはそれでプロジェクト・マネジャの管理負荷を軽減し,支えることにはなっている。ただし,ややもすると「紋切り型の助言は役に立たない」「現場を知らないのに偉そう」といった反感を招くこともあり,プロジェクト・マネジャにとってありがたみは薄い。このような枠組みの中で,“事務屋”のようになってしまうPMOが非常に多いという。

 一方,支援型のPMOは,「プロジェクトがうまく回るように支援する」という意識が非常に強い。定型的な管理作業もするが,むしろそれを超えたところでプロジェクト・マネジャを支えている。例えば,定型的な管理レポートにまだ表れていないリスクがあったとしても,「何かおかしい」と感じたら行動を起こし,現場と密なコミュニケーションを取りながら実態を解明していくようなタイプだ。プロジェクト・マネジャと同じ目線で行動してくれる支援型のPMOは,プロジェクト・マネジャにとって本当にありがたい存在になるが,残念ながら少数派だという。

 管理型PMOより支援型PMOのほうが,プロジェクト・マネジャにとって“ありがたい存在”であるのは明らかだろう。両者の間には大きな隔たりがあるものの,何を乗り越えていくべきか,道筋は明らかである。それがすぐ可能かどうかの議論はさておき,経営環境が一層厳しくなる前に,PMOの役割を一度見直す時期に来ているのではないだろうか。