8回にわたって、日経コンピュータが第2回「企業のIT力」ランキングを作成する際に着目した8つの視点について1つずつ取り上げていく(→100位までの総合ランキングと調査の詳細はこちらの記事を参照)。5回目は、「利用部門とのコミュニケーション」を取り上げる。利用部門からのシステム化案件の要望や、不満などをどのように聞き、実践しているかを13個の設問(調査票から「IT力」の算出に使った質問を抜き出して柱ごとにまとめた「抜粋版」)から聞いた。1位はトヨタ自動車となった。

「利用部門とのコミュニケーション」ランキング

順位 企業名 偏差値
1 トヨタ自動車 75.53
2 リコー 72.75
3 エーザイ 71.88
4 シャープ 70.74
5 日産自動車 70.57
6 東京海上日動火災保険 70.50
7 日立製作所 70.07
7 村田製作所 70.07
9 富士通 70.03
10 富士ゼロックス 69.90



第1位 トヨタ自動車

 トヨタ自動車は、利用部門から求められるシステム化案件に優先順位を付ける基準があったり、要件定義や設計、テストなどのフェーズに利用部門が携わることをルールにしているといった取り組みを、世界中の拠点で徹底して実行しているのが特徴だ。

 その要となるのが、第4回で紹介した独自のマニュアルだ。システム化案件の企画の進め方を説明する「ピンク本」には、システム構築に着手する前に必要な作業に絞って、システム化の目的や対象範囲の定め方、システム化計画の記述・立案方法などを利用部門と詰めるための方法をまとめている。そのため、計画段階で利用部門の要求をIT部門が誤解したまま、あるいは利用部門が過度な要求を抱いたままプロジェクトをスタートさせることがないようにチェックできるのだ。これらのマニュアルに従って、世界中の拠点にあるIT部門が仕事を進めている。

 システムが稼働した後も、利用部門とのコミュニケーションを絶やさない。専任の「御用聞き部隊」が3カ月に1回、使い勝手について意見を聞くようにしている。そのほか、操作方法など利用部門から問い合わせがあった場合、電話やメールだけでなく、必要があれば全国どの拠点にも出向く体制を整えている。同社に根付く“現地現物”や“カイゼン”の考え方がここにも生きていると言える。


第2位 リコー

 リコー(総合10位)もトヨタ自動車と同様に、要求や設計、テストといったフェースに利用部門が関わることが決まっている。連載第3回で紹介したように、同社ではインフラ以外へのIT投資について、利用部門は効果を出す責任がある。そのため、IT部門でも効果を出せるように支援する体制が出来上がっている。

 2006年に同社のIT部門がスタートさせたのが、「ERCシステムの使いこなし向上プロジェクト」だ。ERCシステムとは製品の電気的な違反を自動検出するシステムだが、データ登録に手間がかかると利用が進んでいなかった。IT部門が利用部門に出向き、半年間、データ入力を手伝った。加えて、機能改善を実施したり、強制的に利用するようにプロセスを変更したりするなどしたことで、効果を高めることにつなげている。こうした取り組みを2004年以来、続けていることが、高い評価につながった。


第3位 エーザイ

 エーザイ(総合31位)は、利用部門との関係をITに関するグループ共通基準「EIA(エーザイ・インフォメーション・アーキテクチャ)」や独自の開発方法論で定めているのが特徴だ。「プロジェクトの企画や要件定義の段階で、利用部門の参加が不十分だと判断した場合は、システム開発に着手しないこと」といったことまで事前に決めてある。利用部門が十分に参画せず、システム開発がうまく進まないといった事態を防ぐことができる。海外拠点まで含めて、10年間、この基準を守り続けている。