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Gartner社
David Willis氏,
Chief of Research

前回、Peterは皆さんに対して「新しい世界」でのすみやかな意志決定をもとめたが、意志決定を下すのは、いつも難しい。それが正しい決定となるとなおさらだ。次に進むべき方向を正しく選択するためには、ITやテクノロジーのみでなく、とりまく世界を「可視化」しなくてはならない。

まず、「テクノロジー」「ビジネス」そして「社会」がどこへ向かっているのか、ITに最も大きな影響を及ぼす変化の源泉がどこにあるのかを考えてみる。今、ITに対して一番大きな影響を与えているのが「社会」と言うと、読者の方は、驚くかもしれない。

しかし、事実である。社会によるテクノロジーの利用形態は変わりつつあり、その変化に、あなたのビジネスをいかにうまく適合できるか否かが成功の鍵を握る。あなた自身を例にとって考えてみるとわかりやすいだろう。あなたも、こうした社会変化の一部にあるわけだから。

「効率」「柔軟さ」 「迅速さ」「競争上の優位」

現実的な視点からみて、あなたの顧客はITに何を期待しているのだろうか。

顧客はITによって、「効率」「柔軟さ」「迅速さ」「競争上の優位」がもたらされると期待している。そして、これらを実現するためには、社会がどちらの方向に向かっているのかを広い視野から分析する必要がある。

社会が向かう方向を理解するために、これまでの道のりを少し振り返ってみる。かつてのテクノロジーは、制御可能なものだった。ソフトもハードもインフラも、私たちの想定通りの結果を生み出していた。それが最近では、制御不能に思えることがたびたびある。過去わずか30年の間に、こうした変化が起こったわけである。

テクノロジーは世の中に広く普及すると同時に、目に見えない存在となり、人から意識されなくなる。つまり、その価値も、なにか不具合が起きて不便な自体になるまで認識されないことになる。

アナログからデジタルへ、60年がかりの旅

かつて、蒸気機関、鉄鋼、自動車が約60年で成熟したのと同様、私たちは、アナログからデジタルへと移り変わる旅を続けている。ちょうど旅の半ばまできたところだ。これまでの30年は、テクノロジー指向が強く、テクノロジーの進歩はビジネスがドライブし、制御可能だった。そしてテクノロジーは世の中に浸透し、コンピューティングのインフラストラクチャとしてあらゆる企業に不可欠な存在となった。実際、ビジネスのリエンジニアはテクノロジーを使ったオートメーションを想定して行われてきた。

ところが、過去5年におきた変化は、30年間の歴史の中でも類を見ない劇的なものだった。インターネットへ容易にアクセスできるようになり、米国では人口の4分の3に相当する人が日常的に利用している。携帯電話は、企業や裕福な人だけのものでなくなり、子供向け、老人向けなどの細分化も進んでいる。デジタル・カメラも爆発的な普及を遂げ、ついには、従来のフィルム現像に関わる業界を完全に不要にしてしまった。その一方で、個人が写真を加工するためコンピュータの処理性能や画像の高性能化が進み、印刷には高画質プリンター、保存にはより大きなストレージが必要となり、インターネットを介して資源を共有するようにもなった。また、「Flickr(オンライン写真アルバム・サービス)」やブログなどのWebホスティング・サービスが立ち上がった。

これによって、さらに多くのものが生まれ、「生データ」「帯域幅」「ストレージ」が増大する。論理フローは複雑になり、分析すべきことが増えている。当然ながら、これらすべてに、管理とセキュリティが必要になる。写真だけでなくデジタル化されたビデオの共有化が進めば、さらにこうした傾向に拍車をかけるだろう。

この5年の間に、一般消費者はデジタルなライフ・スタイルを発見し、受け入れた。これが私たちの向かっている方向だ。テクノロジーは過去30年にわたってビジネスがドライブし、ビジネスに深く浸透してきた。しかし、ほんの数年間におきたアナログからデジタルへの変化が、私たち個人の仕事や遊び方に大きな影響を与え、テクノロジーがパーソナルになったのだ。

もはやテクノロジーを単独で語ることはできない――それは局所的な見方にすぎない。「テクノロジーとビジネス」「ビジネスと社会」「社会とテクノロジー」――こうした関係を理解することが大切になる。

テクノロジー・プロフェッショナルとして、私たちはもう、自らの思いだけを外の世界に押しつけることはできない。むしろ、我々を取り巻いている外からの視点を持たなくてはならない。私たちは、こう問いかけてみる必要がある――「未来の世界はどんな形をしているのか」「成功するためにはどんなビジネス戦略が必要なのか」「どんなプロセスやサービスが必要なのか」「新しい社会インフラとは」。

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四つのペアで、トレンドをとらえたい

以下では、「テクノロジー市場」「インフラ戦略」「アプリケーションのデリバリ」そして「社会自体」という4つの主要分野で起こっている変化について言及したい。その話題の中には、テクノロジーに関するものだけでなく、人々と社会、ビジネスに関わるものもある。
こうしたトレンドが互いに関連し合い、止めることのできない変化の旋風を巻き起こし、産業革命以来最大の構造的変化を突き進めていくことになる。

4分野に起きている変化について、以下の4つのペアとなるキーワードを中心に語っていく。

「コモディティ化とコンシューマ化」
「仮想化とテラアーキテクチャー」
「ソフトウエアのデリバリー・モデルと開発スタイル」
「コミュニティとコラボレーション」

テクノロジーの進化と普及は加速を続け、私たちがつい最近まで先進的なテクノロジーだと思っていたものが今や当たり前で、先進国世界のほとんどの人にとって容易に手の届くものになり、発展途上国にもますます浸透している。次回は、そんな「コモディティ化とコンシューマ化」についてお話しよう。

David Willis氏
ガートナーのDavid Willis氏は主にコミュニケーション分野のリサーチをChief of Researchとして担当し、全世界のネットワーク、テレコム機器、サービスに関するリサーチ全体の方向性、フレームワークを統括している。また、企業のコミュニケーション計画、効果測定、インフラやソーシング戦略についてのリサーチと分析に基づいたアドバイスを行っている。

本記事は2006年5月に、米国サンフランシスコにて米Gartner社が開催したシンポジウム(Gartner Symposium/ITxpo 2006) における講演内容を抜粋したものである。