Steve Prentice氏_1  
Gartner社
Steve Prentice氏,
Chief of Research and Distinguished Analyst

コモディティ(汎用品)とは、日常的にスーパーなどで買えるものを指す。例えば、朝食用シリアル、牛乳、パンなどである。

経済学者によるコモディティの定義は、「価値があり、複数のサプライヤーから入手可能なもの」となっているが、それは「スーパーマーケットで日常的に買う物」と本質的に同義だといえる。

現在、テクノロジー(特にハードウエア)のほとんどの分野で、このコモディティ化は起きている。

パンや牛乳と同じように、今や地元のスーパーでコンピュータを買うことができる。このままコンピュータの価格が下がり続ければ、そのうちお菓子のおまけについてくる日が来るのではないかと思えるほどだ。

「私に関係ない」は、危険な思い込み

ディスク・ストレージも急速にコモディティ品になりつつある。いまでも、ATAインタフェース対応のHDD、1テラ(T)・バイト品を300ドルくらいで買うことができるし、価格はさらに下がり続けている。

帯域幅や通信も、コモディティ化が進んでいる。通信機器は幅広いサプライヤーから選べるし、どの通信プロバイダを選ぼうと、本質的に同一の「商品」を買うことができる。

将来に目を向けると、テクノロジーのピラミッド全体に、コモディティ化の波はさらに押し寄せるだろう。今日時点では、まだ、その対象がパソコンやストレージ、通信といった土台にあたる部分だが、明日にはソフトウエアやサービスの分野もコモディティ化の対象になる。

「それがどうした?」とおっしゃるかもしれない。「私には関係のないことだ。私は企業のためにプロ用のテクノロジーを買っているのだから」といったご意見もあるだろう。

しかしそれは危険な思い込みだ。今、一般消費者が影響を受けているように、エンタープライズの領域もコモディティ化の影響を受けるのは確実だからだ。

現に、一部のコモディティ的な消費財と、あなたが企業用のシステムのために買う製品の間には、本質的な違いがほとんどない。あるいはその違いは驚くほど少ない。同じ製品でありながら、ベンダーから提供される周辺サービスやサポートに差があるため、価格が大幅に引き上げられていることも多いのだ。こうした価格の引き上げ分に対価を支払わず、インフラの一部を消費者テクノロジーで構築することも選択できる。

コモディティ化は激しい競争環境が生みだし、その結果として価格が降下して、驚くほど強力なテクノロジーを誰もが安価で手に入れられるようになる。

ユーザーの影響力が絶大に

その昔、企業が古いパソコンを従業員に払い下げていたのを覚えているだろうか。今や状況は一変した。私自身もそうだが、多くの人は、勤務先で使用するより強力なコンピューティング力と帯域幅を自宅に持っている。それが現実だ。

これは一般ユーザーと企業の持つ、ベンダーに対する影響力バランスが大きく変わってきたことを示している。

こうした背景から、ハードウエア・ベンダーは、多様なコンフィギュレーション、消費者好みのコンフィギュレーションを提供せざるを得なくなった。また、「自宅に非常に強力なコンピュータがあり、それが自分の仕事のやり方に合っているから、会社のネットワークに接続したい」とユーザーは雇用主に要求するような状況に陥っている。

企業としてのセキュリティを守るために苦労しているIT部門にとってこれは悪夢のようなシナリオであり、多くの会社がこれを禁じている。しかし「ノー」と言うだけでは、すまない。こうした流れは必然であり、いずれ対応していかなければならないからだ。

私は主にヨーロッパ各地のCIOとこの問題について話をする事が多いのだが、皆さんも同じ問題で葛藤していることだろう。

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別の例を取り上げよう。例えば携帯電話だ。

私は20年近く前から携帯電話を使っているが、自分で携帯電話を買ったこともなければ料金を払ったこともない――会社から支給されたものをずっと使っている。

しかし私には10代の子供が3人いて、それぞれが自分の携帯電話を持っている。彼等の機種(モデル)に対するこだわりの強さと言ったら時には髪型や服装以上だ。その子供たちも、何年かすれば職場で働くようになる。すると、入社初日に、会社から携帯電話を支給される可能性も高が、おそらく、新入社員の若者は支給された携帯電話をみて、こう言うだろう。「こんなガラクタ、使えない。私が使うのはA社製かB社製のこのモデルだけ」と。

ところが会社側は「これが当社の標準品として承認されたデバイスであり、他は一切サポートできない」と答える。

その頃になれば新入社員達はそんな回答にめげたりしない。そして、支給された携帯電話のSIMカードをさっさと抜き取り、自分の好きな携帯電話に入れるに違いない。そうなると、企業側は何千種類もの非標準デバイスをネットワークの中でサポートする羽目になる。

ここで、忘れてはならないのが、既に携帯電話はパワフルなコンピュータであること。ブラウザや電子メールの機能があり、数Gバイトのストレージを備えている。当然サポートの労力は、ノート・パソコンに対するものと大差が無くなる。