これまで数回にわたって,システムがレイムダック化(弱体化)したときに,その甦生に関わる人々を取り上げてきた。その最後として,今回からシステム・インテグレータ(以下「ベンダー」と表記)を取り上げよう。

 システムトラブルの責任問題は,ベンダーとユーザーの間で常に議論の余地がある。まず,システムトラブルの実例を挙げて,現場の実態を検討することから始めよう。

ベンダーはユーザーの意識改革に注力すべし

 中堅の電気機器メーカーA社はSCM(サプライチェーン管理)を導入するに当たり,ベンダーB社にすべてを任せた。しかし,いくつかのトラブルが発生した。

 まずデータ入力で,手抜きが発生したり,入力のタイミングや内容が現実と乖離(かいり)するようになった。A社ではデータ入力を営業部門や製造部門の第一線の現場に担当させることにしていたが,担当者に対する啓蒙が不十分だったためである。

 さらに,BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)や要件定義の不十分さを原因とするトラブルもあった。A社では,締め切り日近くになると,製品の完成や出荷の手続きを抑えたり,逆に未完成品について完成や出荷の手続きすることが恒常的に行われていた。業績の手加減をするための,在庫・売上高調整である。

 SCM導入前は,この在庫・売上高調整を手作業で辻褄合わせをしていた。しかしSCM稼動後は,販売/生産計画との間で齟齬(そご)が生じるようになり,棚卸不一致や顧客との間で製品未着のトラブルが発生するようになった。トラブルを糊塗するためには,さらなる修正入力が必要となった。加えて営業部門の販売見込みにも,担当者の思惑がしばしば入るようになった。

 せっかく導入したSCMは関係部門から敬遠され,やがて誰にも振り向かれなくなった。

 A社のSCM導入についての問題点は,いくつか指摘できる。そもそもベンダーB社に任せっ放しにしたユーザーA社に責任はあるが,それを無批判に受けたB社の責任も大きい。IT導入のベンダー丸投げは絶対避けるべきだ,とベンダーも十分承知しているはずだ。

 このことも含めて,ベンダーはユーザーに対して,IT導入は経営そのものの問題であることをトコトン主張すべきだ。併せて,必要な業務改革を断行すること,IT導入成功のためには常にユーザー主導でいくこと,初期段階でユーザーとベンダーの役割を明確にすることなども主張し,啓蒙する。そして,ユーザーの意識を変えなければならない。B社はベンダーとして,これらを怠った。その責任は極めて重い。

 さらにB社には,ユーザー視点に立つ(ユーザーの言いなりになれということとは違う),要求開発に深く関わる,顧客の業務知識を習得し熟知する,問題点についてユーザーへのフィードバックは手抜きをしない,などが強く求められる。

 こうして考えてくると,導入したシステムが万が一レイムダック化したときに,ユーザーの責任だとしてベンダーが責任を逃れることは,ほとんどできないことになる。そして,どんな方法やアプローチを取るかは別として,ベンダーはレイムダック化したシステムを甦生する責任の一端を負わなければならない。

ユーザーが抱える「納品すればおしまい」というベンダーへの不満

 このことは,多方面で実施されているベンダーに対するユーザーの満足度調査でも垣間見ることができる。

 社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「ユーザー企業IT動向調査2006」,「ITセレクト2.0」の「ITマネジメント&顧客満足度調査」(2005年1月号)などで,ユーザーがベンダーに抱く不満として「企画提案力」「業界・業務知識」「技術力」「完成システムの品質」などが上位を占めている。これら一般的な指摘事項のほかに「こちらの指示への対応以上の仕事をしない」とか,「自分に都合の良い提案しかしない」という指摘も少なくない。その姿勢は,システムがやがて誰からも振り向かれなくなる要因になる。

 そしてシステムのレイムダック化に直接関わりそうな重要な指摘が,別の調査に現れている。日経コンピュータの「第10回顧客満足度調査」のなかで「こんなベンダーは嫌われる」調査でまとめられた「嫌われるベンダーの条件」には,生々しいユーザー意見が集約されている(「日経コンピュータ」2005年8月8日号)。「顧客の無知につけ込んで売りつける」「売った後はなしのつぶて」という営業マインドの欠如が挙げられているが,これは一営業の問題ではなくベンダーの体質そのものを表しており,「システムを納品すればおしまい」という無責任なところへ結びついていく。

 ITproに2005年9月に掲載された「動かないコンピュータ・フォーラム(9)」では,ユーザーの1人からユーザー・ベンダー両方の問題として「完成すれば全ての問題は解決すると信じている雰囲気」が指摘されている。

「“システムの完成”はベンダー側では,ひとまずプログラムの完成やら完成図書などの“納品”を示しているが,ユーザー企業側では,それを使って運用しなければならないことを忘れてしまっているのではないか。(中略)両者が打ち合わせることと言えば,当然,プログラムの仕様が中心で,"使い方"については二の次だ。(中略)ユーザー企業が求めているのは,むしろ,SEではなくコンサルの域であろう」

 ここに,誰も振り向かなくなったシステムへのベンダーの関わり方のヒントが隠れている。次回は,この辺を詳しく検討していこう。


→増岡 直二郎バックナンバー一覧へ

■増岡 直二郎 (ますおか なおじろう)

【略歴】
小樽商科大学卒業後,日立製作所・八木アンテナなどの幹部を歴任。事業企画から製造,情報システム,営業など幅広く経験。現在は,nao IT研究所代表として経営指導・執筆・大学非常勤講師・講演などで活躍中。

【主な著書】
『IT導入は企業を危うくする』,『迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件』(いずれも洋泉社)

【連絡先】
nao-it@keh.biglobe.ne.jp