1回目の今回は,中堅・中小企業のアプリケーション利用率について触れる。ITproでは以前,「データで見る中堅・中小企業のIT導入実態」としてサーバーを導入している企業の利用実態を報告した。この連載では,その調査を受けて,アプリケーション調査の分析結果の内容を,12回にわたって報告する。

5年間でパッケージ利用率が次第に増加

 中堅・中小企業のアプリケーションの利用実態は過去5年に渡って実施しているが,時系列で明確な傾向が現れている。それは「パッケージ・ソフトの利用率」が高くなってきていることだ。情報系などは5年前からパッケージがソリューションの中心だったが,基幹系業務アプリケーションは「作り込み」と言われる「自社開発・カスタムメイド」が多かった。しかし,ここ数年,基幹系でもパッケージの利用率が高まってきている。

 パッケージの利用率向上が特に顕著なのが,財務管理,人事管理,ERP(統合業務パッケージ)などだ。これには,パッケージの「使える度」が増したこと,それに,ITに掛ける予算が相対的に減少したことで「パッケージにせざるを得ない」という2つの理由が考えられる。詳細については個別のアプリケーション状況を次回から述べるので,そちらを参照していただきたい。

 今回の調査のポイントを整理すると以下の5点になる。

  1. 利用率が高い基幹系業務アプリケーション
  2. パッケージ割合が高くなった基幹系業務アプリケーション
  3. 利用率が低い戦略系アプリケーション
  4. セキュリティはアプリケーションというより「インフラ」
  5. グループウエアは高い利用率

 中堅・中小企業で利用されているアプリケーションでは,当然のことながら基幹系業務の利用率が高い。「財務会計」(74.5%),「ERP」70.9%,「給与管理」(70.3%),「販売管理」(58.2%),「生産管理」(32.7%),「人事管理」(29.5%)の順(図1)。企業経営にとって必須業務である「財務会計」の利用率が最も高い。ERPの利用率が高いのも目立つ。あえて付け加えるなら,単なる業務アプリケーションをERPと“自己申告”した回答もあると考えられるので,狭義の意味でのERP導入率よりも高めに出ている可能性は高い。

図1●中堅・中小企業におけるアプリケーションの導入比率
(Nは回答数)

 業務系アプリケーションとは多少異なるが,調査ではあえてセキュリティを含めて聞いた。セキュリティはアプリケーションというよりも,もはやインフラに近い位置付けとなるので,やはり極めて高い導入率となった。1社で複数製品を導入している企業が多いため,利用率は100%を超えて102.9%となった。

 情報系のアプリケーションでは「グループウエア」が63.9%と高い利用率だ。逆に「CRM(カスタマ・リレーショナル・マネジメント)」,「DWH(データ・ウエアハウス)」,「ナレッジマネジメント」,「CTI(コンピュータ・テレフォーニー・インテグレーション)」など戦略系ITの利用率は10%前後と低めだ。これらの戦略系ITアプリケーションは定着する前に消えるか,吸収されるか,別の「バズワード」に変容する可能性すらある。明確にユーザーと売る側の温度差が見て取れる状況だ。その要因として,ユーザーからは「必要とされていない,必要と感じさせることができない(提案していない),効果が良く見えない」などの指摘があった。

 次回からは,アプリケーションのカテゴリ別のパッケージシェアとその評価について述べる。まず初めは,注目度の高いアプリケーションである「グループウエア」について分析してみたい。

 なお回答企業プロフィールなどの調査概要については,こちらをご覧ください。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て98年に独立し,ノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。