「13.54,この数字の意味が分かる方は手を挙げてください」。ソフトバンクモバイルの孫正義・代表執行役社長は9月28日,秋冬新製品・サービス説明会に集まった報道陣・関係者を前に誇らしげにこの数字を巨大スクリーンに映し出した。「13」は携帯電話端末の機種数,「54」はその色数を示す。KDDIが8月28日に発表した12機種を上回る数字である(関連記事)。少しでも競合他社を上回る成果を見せたい――。そんな気持ちが十分伝わってきた数字だった。

写真1 13機種54色の携帯電話端末を掲げるパネル
写真1 13機種54色の携帯電話端末を掲げるパネル
写真2 台湾HTC製のHSDPA対応のスマートフォン「X01HT」
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写真2 台湾HTC製のHSDPA対応のスマートフォン「X01HT」

 だがその約1時間半前,NTTドコモの定例社長会見(関連記事)で中村維夫・代表取締役社長は以下の発言をしていた。「年末商戦向けの903iシリーズなどを2007年3月までに20機種以上出していきたい。10月には発表する」。

 NTTドコモの中村社長が「13.54」という数字を事前に知っていたかどうかは定かではないが,ソフトバンクモバイルの発表の一つに携帯電話の機種数があることは予測していたのだろう。ライバルの晴れ舞台の直前,あえて上回る機種数を出して出鼻をくじく――。ソフトバンクモバイルが戦う相手はそれほどしたたかで手強いのだ。

薄型やHSDPA対応Windows Mobile端末を他社に先駆け投入

 とはいえこの13機種54色という第3世代携帯電話の端末数は,ボーダフォンとしては過去最多(写真1)。孫社長がボーダフォンを買収してから課していた「四つのコミットメント」,すなわち(1)3Gネットワークの充実,(2)3G端末の充実,(3)営業体制の充実,(4)携帯コンテンツの充実の4点のうち,3G端末の充実を具体化させたものだ。

 秋冬モデルの特徴は,(1)薄型モデルを4機種投入,(2)フラッグシップ機に3倍光学ズームの500万画素カメラを搭載,(3)シャープ製の3機種にVGA(640×480ドットの解像度を指す)液晶を搭載,(4)台湾High Tech Computer(HTC)製のHSDPA(high speed downlink packet access)対応のスマートフォンの投入--などが挙げられる(関連記事)。

 (1)の薄型端末は特に力が入っている。孫社長は「一番薄いと言える端末を4機種発売する。“薄いケータイはソフトバンク”というイメージを打ち出していきたい」と強調する。(4)のWindows Mobile搭載端末はHTC製の「X01HT」(写真2)。既にNTTドコモがHTC製のWindows Mobile端末「hTc Z」を販売しているが,これは法人市場向けがメインで個人向けはネット販売のみ。ソフトバンクモバイルは,X01HTを10月中旬に当初から個人に向けて販売する。最大の特徴はHSDPAに対応する点。下り最大1.8Mビット/秒(ソフトバンクモバイルのサービスは最大3.6Mビット/秒まで対応)の高速データ通信が可能である。

 孫社長は発表の最後に「隠し玉の端末も2機種用意している」と発言したが,「今日は内容は言えないが,その2機種では10色展開を予定している。そのため,最終的な秋冬モデルは15機種64色となる」と説明するにとどめた。

ボーダフォンの置き土産で秋冬商戦を乗り切る

 薄型などの話題は,端末戦略上重要ではある。だが,会場に集まった報道陣や関係者は“それ以上”の何かを期待していたことは否めない。

 ある販売代理店の幹部は,ソフトバンクモバイルの秋冬製品を「旧ボーダフォン経営陣からソフトバンクへの置き土産」と称する。旧ボーダフォン時代よりも積極的に端末を投入する姿勢を打ち出したかに見えるソフトバンクモバイルだが,今回発表した新端末のほとんどは旧ボーダフォンがソフトバンクに買収される以前に企画され,開発が進められてきたものである。ソフトバンクモバイルは,この“置き土産”を今まさに市場に投入し始めているのだ。

 一般的に「携帯電話の開発には1年半から2年近くかかる」(関係者)。ソフトバンクの企業体質がいかに“スピード感”あふれるものであっても,わずか半年で端末をゼロから開発するのは不可能に近い。それでも孫社長は9月28日に発表した新端末に“ソフトバンク色”を何とか打ち出した。それが豊富な色数,そして「Y!ボタン」である。Windows Mobile搭載端末を除く新端末に付けられた「Y!ボタン」によって,ポータルサイト「Yahoo!ケータイ」にダイレクトに接続できる。ある関係者は「ボタンの変更をよくこれだけの短期間で間に合わせたな,というのが実感」と評価する。

 孫社長が言う“隠し玉の端末”にソフトバンクの色はどう付けられているのか。スピード感が試されている。