=== (前編を読む) ===

 地上アナログテレビジョン放送のデータ放送サービス「ADAMS」やEPG(電子番組表)放送サービス「ADAMS-EPG」などの放送・通信連携サービスを早くから展開し,2006年4月1日にワンセグ放送サービスを開局したテレビ朝日。事業局デジタルコンテンツセンター主任の前田寿之氏に,ワンセグサービスの現状と期待,放送通信連携サービス,そしてその課題について聞いた後編である。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


--- テレビ朝日のワンセグサービス向けコンテンツを教えてください

 現在提供している非連動型コンテンツは,天気,ニュース,スポーツ,占いの4つです(表1写真1)。

表1 テレビ朝日のワンセグサービス---番組非連動データ放送一覧
(2006年8月時点)

 天気は,1都6県の情報を提供しています。基本的にはデータ放送で見られるようにしていますが,詳細情報については通信の1次リンク・コンテンツ(「第2回 ワンセグ放送のサービス・イメージ」の図3参照)で提供しています。通信コンテンツのレスポンスが遅い点が課題であり,本来ならなるべく多くの情報をデータ放送コンテンツで放送したいと思います。一方でデータ放送の容量に制限があり,バランスを考えて現在は詳細情報は通信で提供しています。

写真1 テレビ朝日のデータ放送TOP画面

 ニュースは,インターネットでも配信しているANNニュースをワンセグ用に加工して,タイトル(ヘッドライン)をデータ放送で配信し,詳細ニュースは通信を利用した1次リンク・コンテンツで提供しています。更新のタイミングはインターネットのANNニュースに合わせています。ニュースのコンテンツは1カ所で入稿するだけで,インターネットと携帯サイト,固定型テレビ向けデータ放送とワンセグの4媒体に展開できるシステムになっています。

 スポーツニュースのタイトルは,データ放送で見られます。さらに,各携帯電話キャリア向けの公式携帯サイト「テレ朝☆スポchan」と連携させ,「テレ朝☆スポchan」の有料会員向けに詳細情報を通信の2次リンク・コンテンツ(携帯Webサイト)で提供しています。

 もう1つのコンテンツが占いです。平日の朝4時25分~7時30分に放送している報道番組「やじうまプラス+」の「やじプラ占い」のコンテンツを提供しています。これはインターネットや固定型テレビ向けデータ放送でも提供しており,固定型テレビ向けデータ放送とワンセグは同じデータを使用しています。占いの更新タイミングは,番組で放送された後です。

 番組連動コンテンツは,固定型テレビ向けデータ放送で早くからさまざまな手法を使って提供してきました。現在のワンセグデータ放送の連動コンテンツは,他社と比べて少なめだと思います。テレビ朝日では「固定型テレビ向けのデータ放送とワンセグデータ放送はセット」がルールになっています。そのため,ワンセグデータ放送だけを拡充することはありません。全国ネット番組については,固定向けデータ放送とワンセグデータ放送はセットで提供しています。ただし,関東ローカルで例外的にワンセグだけでデータ放送を提供している番組はあります。

 連動データ放送は全国ネット番組と関東ローカル番組で数番組ずつ提供しています(表2)。全国ネット番組は,「奇跡の扉 TVのチカラ」と「旅の香り」,木曜ドラマ「下北サンデーズ」の3つです。情報番組である「旅の香り」では,番組内で紹介した店舗情報などを固定型テレビとワンセグ向けに番組連動データ放送として提供しています(写真2)。

表2 テレビ朝日のワンセグサービス---番組連動データ放送一覧
(2006年8月時点)

写真2 「旅の香り」の画面

 今後は,番組連動コンテンツのジャンルを増やす方向で検討しています。まだ提供していないジャンルに報道系や音楽番組などがあります。各ジャンルに応じて,どういったデータ連動番組が受け入れられるのかを考えていきたいと思っています。デジタルコンテンツセンターで考えるよりも,番組制作サイドのアイデアがより面白いこともあります。ワンセグの番組連動データ放送そのものを制作側に周知させる効果もあるので,編成や制作のスタッフと協力してコンテンツを作っていくつもりです。

--- ワンセグをデータ放送と一緒に“縦型”で視聴してもらうための対策はありますか。

 まず,ワンセグデータ放送を目立たせて,積極的にワンセグのアピールをすることです。一つの手法として,選局時に一瞬だけ画面を表示する“スプラッシュ”の技法を使っています。ワンセグでテレビ朝日を選曲すると特番などのスプラッシュが全画面で表示され,かなり目を引くはずです。視聴者にデータ放送のインパクトを与えられる手法だと思います。

 また,TOP画面の背景色を時間によって変える仕組みも導入しており,視聴者の注意を引きたいと思っています。当初は利用者が自分の好きな色を登録できるようにするつもりでした。しかし,携帯電話がワンセグ用に使うメモリー(VRAM)に登録してもらう必要があり,さらにTOP画面の起動時に毎回「放送用メモリへ参照の可否」の警告ポップアップ画面が表示されることが分かったため,残念ながらユーザー登録はあきらめ,時間ごとに変更する方法を採用しました。

--- ワンセグの普及に向けて,端末やネットワーク,サービスに感じる問題点や課題を教えて下さい。

 視聴者の立場からすると,画面を横にするだけでワンセグのアプリケーションが起動してテレビを見られる仕組みは,とてもいいと思います。「分かりやすく簡単にテレビを起動できる」ことで視聴機会が増えるわけですから,もっと訴求して欲しいです。

 「ワンセグデータ放送の操作の使いやすさ」と「通信のレスポンス」も重要です。レスポンスでは,通信を使う1次リンク・コンテンツの表示が遅いことが問題になっています。一般的な携帯サイトに比べて,1次リンク・コンテンツは表示されるまでに非常に時間がかかります。これは改善して欲しい点です。

 ワンセグ用メモリーにアクセスする際の警告表示の内容も,もう少し何とかならないかと思っています。アクセスするたびに警告文が出るため,一般的な視聴者から避けられる危険性があるわけです。この警告表示のために背景色のカスタマイズはあきらめましたし,一般的なサービスを提供する上では放送用メモリーを参照するような機能は,今はあまり使わないようにしています。

 機能面での不足は携帯電話キャリアに要望しますし,コンテンツの作り方に問題であればテレビ朝日として対応していきます。どうしたら視聴者がワンセグを見てくれるようになるか---。ワンセグを見る大きな「きっかけ」は,視聴のシチュエーションを増やすことでしょう。固定型テレビと競合するのではなく,さまざまな時や場所でワンセグのテレビ朝日を見てもらえるように,アイデアを出していきたいと思います。

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