===> 後編へ続く

 地上アナログテレビジョン放送のデータ放送サービス「ADAMS」やEPG(電子番組表)放送サービス「ADAMS-EPG」などの放送・通信連携サービスを早くから展開し,2006年4月1日にワンセグ放送サービスを開局したテレビ朝日。事業局デジタルコンテンツセンター主任の前田寿之氏に,ワンセグサービスの現状と期待,放送通信連携サービス,そしてその課題について聞いた。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


--- これまでのワンセグへの視聴者の反応は?

 ワンセグが開始されて数カ月ですから,まだちゃんと分析はできていませんし,ワンセグで視聴率を取る仕組みも確立できていません。現在,放送局側で視聴者の反応を知る手段としては,通信を利用して提供する1次リンク・コンテンツ(「第2回 ワンセグ放送のサービス・イメージ」の図3参照)に対するアクセスログ情報があります。今までのアクセスログ情報から判断すると,,1番アクセスが多いのがライブ感があるスポーツ・コンテンツで,2番目がニュースです。

 野球中継は視聴率が下がっているとは言え,1次リンク情報にかなりのアクセスがあります。野球中継で番組連動データ放送を提供すると,PV(ページビュー)は通常の2倍から3倍に上ります。サッカーのワールドカップでは,日本対クロアチア戦を6月18日に放送し,番組連動型データ放送も提供しました。このときは,データ放送コンテンツからのアクセスが通常の7~8倍にも上りました。テレビ中継で平均52.7%の視聴率があった番組であり,視聴者に特に関心の高い番組では,連動型コンテンツのアクセス数も伸びる傾向にあると感じています。

 また,ニュースもアクセスが多いコンテンツです。例えば「報道ステーション」では番組連動データ放送を提供していません。しかし,この時間帯には非連動データ放送で提供しているニュース・コンテンツのアクセスが確実に伸びています。

 スポーツとニュースを除くコンテンツについては,こちらから積極的にアピールしないと誘導は難しいのではと感じています。ドラマなど家でじっくり視聴する番組や,速報性がない番組については,上手に告知しないとワンセグで見てもらうのは難しいでしょう。

--- ワンセグによって,視聴機会は増えていると思いますか?

 ワンセグの視聴時間帯は,基本的に固定型テレビのとほぼ同じ傾向が出ています。ゴールデンタイム(19:00~22:00)やプライムタイム(局の定める午後6時から午後11時までの間の連続した3時間半)が高く,またスポーツやニュースの時間帯にアクセスが多い傾向があります。固定型テレビと異なる傾向としては,平日の昼休みの時間帯にもアクセスが多いといった点が挙げられます。この「昼休みのアクセス数が伸びる」傾向は平日だけで,休日の昼には大きなピークはありません。当初,利用が多いと言われていた「平日朝の通勤通学時間帯」には,実際にはほとんど視聴されていないようです。

 ワンセグの開始によって,テレビを視聴する場面が増えている印象は持っています。つまり,今までは家にいないと視聴できなかったテレビを,家以外の場所でも触れる機会を提供できているわけです。

 今後は,例えば朝の通勤通学時間帯や休日の日中にも視聴してもらえるように,取り組んでいきたいと思います。ワンセグが目覚ましや時計の代わりに使ってもらえるようになるといいと思っています。

--- KDDIとの共同事業検証の状況を教えてください。


図1 テレビ朝日とKDDIの共同事業検証 3種類のモデルで検証している。
[画像のクリックで拡大表示]
 期間は4月~9月で,現在も進行中です。この共同検証では3種類のモデルで検証を行っています(図1)。

 1つは,「テレビ媒体・データ放送による広告展開と連動する販売促進・認知促進等のプロモーション展開」の検証です。月~金曜の24時10分~15分に放送している「オンタマ -音魂-」という音楽番組で,「ワンセグのデータ放送を使ったキャンペーン・サイトへの誘導」と「URLの告知や空メールなどの既存型の誘導」を同時に実施するものです。ワンセグデータ放送からの誘導と既存型の誘導との比較や,ワンセグによるアクセスの伸びなどを検証しています。

 2つ目は,「テレビショッピングおよび番組関連パッケージ商品等のオンラインショッピングの展開」の検証です。月~金曜の9時55分~10時30分に放送している「ちい散歩」という情報番組内にあるショッピングコーナーと,月~木曜の25時59分~26時34分に放送している「セレクションX」というショッピング番組で実施しています。テレビショッピングで紹介した商品の画像をワンセグデータ放送で見せて,最終的にはショッピング・サイトでのEコマースに誘導する試みです。

 3つ目は,「テレビ朝日の番組と連動したオンラインコンテンツの展開」の検証です。放送終了した木曜ドラマ「7人の女弁護士」や現在放送中の「下北サンデーズ」(写真1)で,番組連動データ放送で携帯向けの番組サイトを告知して誘導する検証です。

写真1 木曜ドラマ「下北サンデーズ」のデータ放送画面

 加えて,まずワンセグを見てもらうための告知についても検証しています。例えばテレビ朝日のメールマガジンや,KDDIとの共同検証の1つとしてKDDIが携帯電話へのメール配信を代行する「EZサイトメール」というサービスを使い,放送前に告知メールを送る試みがあります。アラート的な内容だけでなく,前回までのあらすじも告知メールで提供することで,ワンセグで視聴する機会を増やそうという試みです。ワンセグだけでなく,固定型テレビでの視聴への誘導にもなると考えています。

--- ワンセグに対する考え方と今後への期待は。

 まず1つが,視聴機会を増やすということです。2つ目は,データ放送の機能から直接通信サイトへ誘導できる機能の有効活用です。固定型テレビでも最近はインターネット接続機能を搭載した製品がありますが,なかなか通信回線に接続してもらうのは難しいです。ところが,ワンセグ携帯電話ならば最初から通信機能やインターネット接続機能が付いています。100%の利用者が通信環境にあるため,テレビ放送から通信側へ広がりを持たせるサービスを提供できるわけです。

 テレビの番組(放送)というのは時間編成であり,番組連動データ放送も同じように見られる時間が限られます。一方で,通信を介したコンテンツならば,テレビリンクリストに登録するなどして“ブックマーク”しておけば,いつでも見られます。番組の視聴時間を超えて,世界を広げてもらったり楽しんでもらえるサービスが可能だと考えています。

 通信により時間を超えてコンテンツを楽しめて,さらに相乗的にテレビ番組も盛り上がるサービスが一つの理想です。どうやったら,視聴者にもっと楽しんでもらえるのかを追求していきたいと思っています。最優先に考えるべきことは,多くの視聴者に楽しんでもらえることであり,ビジネスの話はその先のことです。まずそのコンテンツや番組を楽しんでもらえないと,どんなビジネスが考えられるのか,今まで議論されてきた「テレビショッピング」が本当にビジネスになるのかなどの方針は見えてこないのではと思っています。

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