情報システムのライフサイクル全体で発生するコストのかなりの部分は,本稼働後の運用コストである。このことは結構以前から言われている話であり,情報システムの開発・運用に携わる人々の間では,短期利用を目的とするアドホックなシステムの場合を除いて,ほぼ常識として受け入れられているのではないだろうか。

 そこで,情報システムのライフサイクル全体のコスト,ちょっと前に流行った3文字略語で言えばTCO(トータル・コスト・オブ・オーナーシップ)を減らすためには,運用フェーズに着目すべきだという話になる。ソフトの保守性を高めるためのSOA(サービス指向アーキテクチャ),サーバー構成のフレキシビリティやスケーラビリティを確保するための仮想化技術も,運用コストの削減に結び付けて解説されることが多い。

 しかし,ソフトウエアのメンテナンスビリティ,サーバーのスケーラビリティ以上に,本稼働以降の運用コストに影響を与える要素がある。サーバーやクライアントなどの消費電力,それに消費電力の一部が姿を変えた発熱である。コンピュータ本体の消費電力にコンピュータ・ルームを適温に保つための空調設備の消費電力を加えると,情報システムの運用コストの半分近くが電力料金になるという説もある。

 消費電力や発熱がこれまであまり話題にならなかったのは,おそらく大半のIT技術者にとって,これらがコントロールの対象ではなく,与えられた前提条件に過ぎなかったからだろう。

 最近になって,これら消費電力や発熱が話題に上るようになっている。1つはプロセサの省電力化である。以前は省電力プロセサと言えば,ノート・パソコン向け製品が話題になるぐらいだった。それが,ここへ来てTCOに影響を与える重要な要素として,米インテルなどが省電力をうたい文句とする製品を発表している(参考記事)。

 コンピュータ・メーカーの側も,熱を効果的に逃がすための冷却機能に力を入れている。例えば,日本HPが6月に発表したブレード・サーバー「HP BladeSystem c-Class」は,最新型の小型冷却ファンを搭載することで,従来製品に比べて30%も体積を縮小している(参考記事)。日本HPでは,コンピュータ単体のレベルにとどまらず,データ・センター内の熱分布を分析して最適な空調設備を提案するサービスも準備している(参考記事)。このほか,NECは静粛性を保ちながらコンピュータを冷却する,水冷式ワークステーションを7月12日に発表している(参考記事)。水冷方式を採用したのは,通常のオフィスに設置した場合,仕事の邪魔にならないだけの静粛性を維持するためである。

 ITproの姉妹サイトであるEnterprise Platformでは,8月に向けて,こうした電力と発熱をテーマとした企画を準備している。これまで比較的地味な扱いを受けてきた電力と発熱だが,夏の盛りの8月,これらの最新動向に注目してみてはいかがだろうか。