紳士服と婦人服にICタグを付けてスマートシェルフなどで商品情報を提供した丸井は、実験のあと導入効果を検証した。スーツとニット(セーターなど)に関しては、同じ商品を扱う他店舗よりも売り上げの増加がみられた(実験の概要は連載第1回を参照)。

 結果の分析では、実験を行った「シティ新宿」と同じ地域にあり、同じ商品を販売する「メン新宿」と比較した。実験を行った2005年11月17日~12月14日の売上高の前年同曜日比(曜日調整済みの比率)を比べると、ICタグを使ったシティ新宿は、メン新宿よりもスーツが10ポイント、ニットが223ポイント高かった。ニットは極端に伸びているが、これはシティ新宿において、スマートシェルフを売り場の最も目立つ位置(一等地)に置いていた効果もあったとみられる。スーツではそうした違いがなかったため、10 ポイントの伸びはそのまま情報提供の効果と判断できそうだ。ほかに靴も実験したが、ICタグを使った店舗の方が曜日比で9ポイント下がった。これは実験中の約1 カ月間、靴売り場の一等地に同じ商品を並べていた影響があったとみられる。他店では1~2週間ごとに商品を入れ替えている。

 コスト効果についても、ある程度のめどが付いた。今回の実験で最もコストがかかったのは、モデルが登場する動画も含めたコンテンツの制作費であり、「数千万円を投入した」(丸井グループ経営企画部長の佐藤元彦取締役)。実験単体で考えるととてもコストは見合わないが「仮に制作費に2000万円かかるとしても、丸井の40店舗に展開すれば1店舗当たり50万円になる。定番商品などならコストは見合いそうだ」(佐藤氏)という。

 商品情報のコンテンツは、阪急百貨店がかばん売り場に導入したスマートシェルフシステムのように、店員に手軽に作成してもらうという方法もある。阪急百貨店のシステムでは、デジタルカメラで撮った商品の写真をマウスで指定し、おすすめ情報などを入力すれば簡単に表示画面を作成できる。丸井の場合はスーツなどが対象だったため、「スーツを棚に平置きした写真などでは質感も分からない」(丸井の佐藤氏)ため動画を使った。対象商品によってコンテンツの提供方法は変えた方がよいのだろう。

 導入効果は検証できたものの、本格導入にはまだ早いと丸井はみている。連載第2回で報告したように、スマートシェルフの技術はまだ未熟な面があるからである。代わりに丸井は、テストマーケティングのツールとして、いち早く実用化したい考えだ。販売前の商品を試験的に店頭に並べて、顧客の反応を見る用途である。スマートシェルフは顧客が商品に触れた回数を記録することも可能で、「興味を持たれた回数は多いが売れない商品」などを探すことができる。そうした商品については、色や形など売れない理由をヒアリングなどで見つけ出し、それらを改良したうえで販売すれば売り上げの増加に結び付くとみている。





本記事は日経RFIDテクノロジ2006年3月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです。