UXデザインのれい明
1980年代半ばに、米国・サンフランシスコのID Two(アイディーツー)という会社を訪問したことがある。その時初めて耳にした言葉が、インタラクションデザインだった。
当時のアップル社のアイコンやGUIの多くは、この会社で制作されており、アイコンを作るために小さな蛇口や戸棚、ノートやペンなどのミニチュア模型が机上に散乱し、そのミニチュアを見ながら、デザイナーはデスクトップアイコンを丁寧に制作していた。
画面上では、単に2次元に表示されるものなのに、どうしてこれほどまでの立体感が必要なのかという、半ば疑問を感じながらも、究極のリアリティーを追求する姿に感動したことを覚えている。その後90年代初頭には、他の2デザイン事務所と統合され、現在世界でも、最も有名なデザイン事務所のひとつであるIDEO(アイディオ)が誕生した。いわゆるUXD(ユーザーエクスペリエンスデザイン)の母体は、ここで生まれたのではないかと個人的には思っている。
これからのUXデザインの要件
画面の中で、人は各種のシステムと対峙し、数々の業務をこなすが、その作業プロセスでいかに効率を上げるか、いかに多くの作業量をこなすかが基本課題だ。しかし、それだけが仕事ではない。その仕事の中で、いかに豊かな経験を得られるかや、いかに楽しく仕事をこなすかというエッセンスの組み込みが、昨今のビジネススキームの中心課題であり、それが米国では、ほぼ30年も前から考えられていたというのは、今考えると驚きだ。
ますます身近になるUX
今年に入って、さまざまなIT系雑誌でUX特集が組まれており、ユーザー(カスタマー)エクスペリエンスという言葉がますます身近になってきた。多くはGUI改善にスポットライトが当てられているが、一方でビジネススキーム全体を通してUXが語られる機会も増えてきている。
SMBG(スマートビジネスゲートウェイ)とは
今回は、その一例として、当社が本年2月よりサービスを開始し、多くのお客さまを獲得し続けているスマートビジネスゲートウェイを取り上げてみよう。
本サービスは「企業に蓄積されたデータに、ソーシャルメディアなどのビッグデータをブレンドすることにより、お客さまのニーズに応じた形でのデータ活用・分析を支援するサービス」だ。
このようなサービスは、一昔前には考えられなかったが、以下のような数々の革新が同時に起こったために実現できるようになってきた。これらの背景がそのままビジネス企画となり、本サービスを提供しているが、その企画段階からUXは検討されてきた。お客さまが当社サイトや社員、サービスと接触するタッチポイントの全てで、UXのエッセンスを封入しようと試みた。
ビジネス企画に至る背景とSMBGの誕生
1.ビジネストレンド : ビッグデータのハンドリングがビジネスの優位性を決定
2.テクノロジートレンド : Hadoopなどの大規模データを効率的に分散処理・管理できるソフトが現れ、一方ハードの機能や処理性能も大幅に向上
3.ソーシャルトレンド : FaceBookやTwitterなどのソーシャルメディアが急速に普及し、マーケティング全般への影響力が増大
これをもとに企画は進められたが、単に世の中がその方向に動いているからというだけで迎合したビジネス企画なら、市場には受け入れられない。ここでUX観点から見落とせないのは、すでにお客さまがお持ちの既存データにフォーカスしたことだろう。従来の商品開発では、自社データのみがベースになるが、これにSNSなどのビッグデータをブレンドすることで、その商品がヒットする精度は向上する。また、インフルエンサーという言葉をお聞きになったことがあるかもしれないが、彼らはヒットの予兆を先取りし、その盛り上がりの前に話題としてSNS上に情報を提供する、いわば口コミのプロであり、先導役だ。彼らはSNSの世界では、すでにマークされており、その発信や発言は、情報の価値や発信タイミング・頻度などにおいて一般の方々とは一線を画している。マーケティング観点から見ると、新商品やサービスの開発に大いに有効だ。
このデータブレンドとインフルエンサーの扱いにより、今回のサービスは有効性を認められたが、それは単に価値があるだけでなく、お客さまの分析能力や新商品開発能力を拡張したとも言え、経験価値(UX)の向上に大きく寄与している。