将来、電気自動車(EV)や燃料電池車が本格的に普及すると、自動車業界の競争環境は大きく変わる。現時点では世界シェアでトヨタ自動車などの後塵を拝するホンダだが、そうした時代を見据え、下克上の準備を始めている。活用するのは、「電池」が生み出すビッグデータだ。
ホンダの研究開発機関である本田技術研究所は、2012年7月に「バッテリー・トレーサビリティー・システム」を稼働させた。日米でリース販売している「フィットEV」に搭載した電池の稼働状況を分析するシステムだ。
500台のEVからデータ収集
オーナーの許可を得たうえで、フィットEVから車速や走行時のエネルギー消費、電池残量といった情報に加え、位置情報や走行時の温度などをリアルタイムに収集。車載機器経由でクラウド上にアップロードし、複数の情報を束ねた「走行レコード」に加工する。2013年8月時点で約500台のEVから、数千万件のレコードを蓄積したという。
当面のデータ活用の目標は、充電システムや電池の改良などに役立てることだ。「走行中の電池切れに不安を感じる顧客は多い。まずはこの課題を解消したい」。本田技術研究所で電池システムの研究に取り組む、武政幸一郎 主任研究員はこう語る(写真1)。
レコードを詳細に分析することで、電池の劣化プロセスを理解できる。「将来的には、バッテリーの残存価値を評価できるようになり、中古市場でどれぐらいの値段がつくかも推定できるようになる」(武政主任研究員)。
システムで収集したデータは、モーターや駆動部品の改良にも使える。今後はEVだけでなく、ガソリン車の競争力強化にも、システムを応用していく。