企業においてクラウドコンピューティングの活用機会は、着実に増加する傾向にある。しかし、システムのサイロ化やシャドウITなど、クラウドに起因する課題を抱える例も少なくない。本連載では、クラウド基盤への移行を検討する企業が十分な価値を享受するために求められる統合シナリオのあり方について考察する。
パブリッククラウドが提供するサービスを利用する場合は、自社のビジネス/IT環境に即した利用基準を運用することが推奨される。また、独自の環境構築が可能なクラウドサービスであるVPC(仮想プライベートクラウド)の活用も視野に入れるべきである。
第3回では、プライベートクラウドの構築指針を取り上げた。今回は、パブリッククラウドの活用指針を考察したい。ITRが実施した「IT投資動向調査2013」によれば、2012年にパブリッククラウドに投資している企業は、SaaSが約46%、PaaS/IaaSが約32%という結果(2012年調査時点)となっており、各々の投資額は拡大する傾向にある。
SaaSは営業支援、就業管理といった業務システムや、メールやWeb会議といったコラボレーション系のシステムで採用されるケースが多い。なかには、SaaSでの市場規模がパッケージのそれを既に超えているアプリケーション分野もあり、SaaSの存在感は今後さらに強まることが予想される。
一方で、機能要件が合わないなどの理由でSaaSが不向きな分野では、PaaS/IaaSがパブリッククラウド活用の選択肢になり得る。最近では、現行システムの稼働環境としてIaaSを採用するケースも増えており、基幹系を含め全面的に移行する例も少なからず出てきている。
この背景には、ここ数年で多くの企業においてサーバー仮想統合が一巡し、仮想化技術に対する抵抗感が払拭されてきた点に加えて、ベンダーが提供するIaaSが充実し、要求に合ったサービスが揃ってきたことがあるだろう。また、持たざる経営を指向する経営層や煩雑なインフラ運用からの解放を望むIT部門においては、プライベートクラウドよりもパブリッククラウドの方が魅力的に映り、IaaSの需要を生み出している。
現在、IaaSは大きく以下の3つに分類できる(図1)。クラウド黎明期におけるIaaSはほとんどがインターネット接続型であり、主にWebサイトやネットビジネスの用途で利用されるものであった。
IaaS (インターネット接続) |
IaaS(閉域網接続)/ VPC(仮想マシン型) |
IaaS(閉域網接続)/ VPC(リソースプール型) |
|
接続形態 | インターネット(あるいはインターネットVPN)接続 | L2/L3 | L2/L3 |
契約/課金単位 | 日/時間単位 | 日/時間単位 | 月単位 |
サーバ課金単位 | VM(増減可能) | VM(増減可能) | リソースプール(増減可能) |
ハイパー バイザ |
プロバイダー指定 | プロバイダー指定 | プロバイダー指定 |
管理方式 | セルフサービス・ポータル | セルフサービス・ポータル | Admin権限付与 |
ハウジングエリア | 連携不能 | 連携可能 | 連携可能 |
カスタ マイズ |
不能 | 原則不能 | 可能 |
2010年頃より、多くのベンダーがインターネット接続型IaaSを閉域網からもアクセス可能にしたことが、プライベートな業務システムの収容先としてIaaSの間口を広げた。これがいわゆるVPCである。
VPCには、仮想マシン単位での契約ではなく、独自に環境構築できるリソースプールの単位で契約できるサービスも存在する。こうして、より安全かつ固有要求に対応するサービスが台頭したことで、IaaSは企業におけるIT基盤の統合・再構築を実現する手段のひとつと見なされるようになっている。