企業においてクラウド・コンピューティングの活用機会は、着実に増加する傾向にある。しかし、システムのサイロ化やシャドウITなど、クラウドに起因する課題を抱える例も少なくない。本連載では、クラウド基盤への移行を検討する企業が十分な価値を享受するために求められる統合シナリオのあり方について考察する。
IT基盤の統合・再構築がここ数年にわたり、重要課題となっている。企業はIT基盤をどのように捉えれば良いのか、そしてクラウド基盤への移行方針をいかに判断すべきか。第1回ではまず、求められるアプローチについて論じる。
投資動向で最も重視される「IT基盤の統合・再構築」
国内企業において、最も重視されるIT動向とは何であろうか。ITRの「IT投資動向調査」では、IT動向のキーワードごとに重要度と実施率を取得しているが、最新の調査では「IT基盤の統合・再構築」が3年連続で最も重視される結果となった(図1)。その実施率も22.3%、24.3%、34.7%と年々飛躍的に拡大している。
IT基盤の統合・再構築の検討の契機となるのは、まず年々増加するIT維持・運用コストの節減にある。投資動向調査によると、年間IT予算の平均62%がITの維持・運用に関わる定常費用である。これを節減するために、IT部門はベンダーとの価格交渉や不良資産の洗い出しなど、様々な施策を講じている。IT基盤の統合・再構築はそうした施策のひとつであり、とりわけ仮想化/クラウド技術を活用した集約・統合による資源効率性の向上が期待されている。
このほかIT基盤の統合・再構築の目的の一端には、グループ/グローバルでのIT標準化もある。つまり、市場競争力の高いグループ共通基盤を備えることで、グローバル進出やグループ一体型経営におけるオーバーヘッドを減らし、事業化スピードを向上しようという狙いがある。
さて、IT基盤といっても、その定義や解釈はさまざまであろう。ITRでは、企業ITアーキテクチャにおけるアプリケーション(SaaS、パッケージ、オフィス系ソフトなど)を除く領域をIT基盤として定義している。システムの開発/稼働環境、および共通サービスがこれにあたる。
このうち共通サービスは、バックアップなどの運用サービス、統合認証基盤などのセキュリティサービスといった共通機能の総称である。大変重要な概念ではあるが、話が発散することを防ぐため、本連載ではシステム稼働環境、クラウドサービスでいうIaaSのレイヤーに焦点をあてて論じることとする。