前の回でもMRPシステムでは部品の調達(製造)リードタイムの確定が難しいことが問題としました。特に製造工程のリードタイムは、製造ロット数や製造工程の負荷状況によって大きく変化するにもかかわらず、MRPのリードタイム設定は常に一定の数字を設定するようになっています。この状態では、実際に部品が必要時期に手に入るかどうか分かりません。欠品状態を起こさないようにするためにわざと長めのリードタイムを設定するといったことも行われます。これでは必然的に在庫は増えてしまう可能性があります。
また、そもそものMRPには製造工程の負荷状況を管理する機能はありませんでした。その後CRP(Capacity Resource Planning:能力所要量計画)といわれる機能がつきましたが、CRPでも工程の所要能力を超えてしまった場合は手作業で納期調整して山崩し作業を行う必要がありました(この方法を「無限山積み方式」といいます、図1)。
無限山積み方式だけでは平準化生産によって工場の稼働状態を高い状態に保つことができませんし、工場の潜在能力を最大限に発揮させることも十分にはできません。これはMRP生産管理システムは利益を生み出す工場を実現するためのツールとしては力不足だということを意味します。
この問題は、日本の製造業経営にとっては大きな問題となっています。例えば、日本の工場の製造単価は海外に比べて高いことを問題にする人がいますが、製造単価は工場の稼働率によって変わりますので、短絡的に海外生産は安いと判断すると大きな間違いを犯す可能性があります。
実際に工場の稼働率が高ければ単価は安くなり、稼働率が落ちれば単価は高くなります。自社工場をフル稼働状態に近づければ近づけるほど、製品原価は下がることになります。製造業の経営者であれば、海外生産によって製造原価を下げようとする前に、工場のフル稼働を実現するためにはどうすべきかを考えるべきです。
ところが、MRP生産管理システムは稼働率調整が苦手なこともあって、こうした稼働率による原価問題に目が届きにくいようです。稼働率向上こそが製造業の最大の収益性改善項目であるにもかかわらず残念です。