前回までは「動かないコンピュータ」にしないための方法として、進化型プロトタイプ開発への期待とこまくさネットサービスによるSapiens進化型プロトタイプ開発へのチャレンジを紹介してきました。
しかし、単に進化型プロトタイプ開発を取り入れただけでは動かないコンピュータ化を防ぐことはできません。プロジェクトを失敗させないためにはもうひとつ重要な観点が必要です。それは開発プロジェクトを開始させる前に経営管理面から見た導入目的を明確にしておくことです。
導入目的が明確でないと、利用者からの様々な要求に対して優先付けすることができません。また、傍観者化している関係者を奮い立たせることも困難です。この状態ではせっかくのプロトタイプも宝の持ち腐れ状態となります。
ここで、「導入目的の明確化など当たり前の話だ」と思われる読者もいるかと思います。しかし、筆者の目から見ると、IT業界の人たちは導入目的の意味が理解できていないように思えてなりません。確かにシステムベンダーの人から「IT化によって経営戦略をサポートする」という話をよく聞くようになりました。また、システム開発の前段階でSWOT分析といった経営環境分析手法を行うことも一般化してきたようです。
しかし、情報システム開発が対象とすべきなのは本当に経営戦略なのでしょうか。ホームページなどを活用して売り上げを伸ばすという話なら分かりますが、基幹業務システムを強化しただけですぐに売り上げが増えることなどあり得ません。筆者のような経営コンサルタントならともかく、どうしてIT業界の人が経営戦略にこだわるのか全く理解できません。
基幹業務システムがサポートするのは、あくまで経営管理を通じた経営の効率化です。導入目的として挙げるのであれば、経営戦略ではなく経営管理面から見た課題解決の道筋をベースにしたものであるべきです。
ところが、システム設計書の導入目的に経営管理面からみた課題解決への道筋が示されているケースは限られるようです。リードタイム短縮だとかコストダウンだとかといった一般的な業務課題が羅列されているにすぎない設計書も多いようです。一般課題がいくら羅列されていても、経営者や利用者は何のために情報システムを置き換える必要があるのか理解することはできません。“納期遅延が多発しているから情報システムを活用してリードタイムを短縮する”といった形で、具体的な企業課題を示す必要があります。
また、導入目的が不明確だと導入効果の算出もいい加減になりやすいようです。例えば、現場工数を何人分削減するみたいな、見せかけのコストダウン効果だけしか提示できていないプロジェクトもあります。いくら現場工数を削減してもそれだけでは企業利益は増えませんので、現場工数削減は経営管理面から見たコストダウン効果としては不十分です(注1)。