■10月に開催された開発者向け会議PDC 2003で衝撃的に登場した次世代Windowsの「Longhorn」。そのプレビュー版である「Build 4051」が,PDC 2003の会場で配布され,また最近になってMSDNなどを通じてダウンロードできるようになった。このBuild 4051がどんな出来具合になっているかをレビューする。

(Paul Thurrott)

とりあえず,日記風に始めよう
 10月26日の早朝,日が昇る1時間前に私はロサンゼルスのダウンタウンにあるホテルの一室で目覚めた。その日から始まる一週間は,私の仕事人生の中で最もエキサイティングなものになるはずだ。電子メールをチェックすると,私が待ち望んでいた知らせが届いていたのだ。

 そのニュースは「The Professional Developers Conference(PDC)2003」向けのビルドである「Windows Longhorn(Build 4051)」を,やっと手に入れられたというものだった。他のPDC2003の参加者は,Bill Gates氏とJim Allchin氏が7000人を超えるコンピュータ・マニアたちにLonghornを紹介した後,少なくともあと1日以上たたないと,それを手に入れることができないのだ。公式に配布されるものを待つこともできた。本来ならもっと早いうちに手元にあるはずで,もう使い始めているはずだった。もちろん私は,すぐにLonghornのダウンロードを開始した。

 取材した米Microsoftの何人かによると,私が以前にレビューをした低品質のアルファ版と比べて,Longhorn Build 4051は目を見張るほどの優れた安定性と使い勝手の良さが備わっている,と保証してくれていた。さらに彼らは,Longhorn Build 4051の出来があまりにもよいため,MicrosoftはLonghornをもっと広く配布することを考えているというのだ。MSDN Universalの会員と,テスト結果をフィードバックすることに同意してインターネットから申し込む人たちに対してである。このプロジェクトが完成するまで,あと2年もあるにもかかわらず,Microsoftは何らかのフィードバックを熱望している。

 これが意味する可能性に興奮していた私は,苦痛なほど長いダウンロードにやきもきしていた。夜中から明け方になり,そしてついに日が昇り,私は時間つぶしのために仕事をしようともした。脳裏をよぎっていたのは,私の置かれた状況についての言わずもがなの現実のことだった。このPDCなる催しは,Microsoft信望者にとって今後2年間は重要な出来事になるはずだ。そして,過去数年間Longhornに取り掛かりっきりになっていた人にこのPDCは初めてのお披露目の場となる。

 PDCは,開催前に異様なほど盛り上がってはいるが,きっとがっかりさせられるだけだなどと,私はMicrosoftファンや仕事仲間と冗談めかして話していた。Longhorn Build 4051のダウンロードが終了する中,私はこのビルドに何を期待できるのかという話や,前回のビルドに注ぎ込んだ私の経験を思い起こし,単純明快な結論にたどり着いた。素晴らしいの一言に尽きるに違いない。Longhornの性能は最近リリースされたMac OS X「Panther」を軽く凌駕し,疑り深い人をも黙らせるほどのものであるはずだ。Longhorn Build 4051は「約束の地」であり,私の予想を満たすというより,予想を超えるものになるはずなのだ。

Build 4051のAeroは不完全でWindows XPに似ていた
 ニュース・エディタのKeith Furmanと共に,PDC開催前の記者発表に出席するため,ロサンゼルス・コンベンション・センターに向かった。どうしてこんな開発者向けの催しに,知識の乏しいマスコミが出席しているのだろうと疑問に思える。背景の技術情報を説明する記者発表は,退屈で学ぶべきものもなかった。

 Keithは,十分なパワーを持ったワイド・スクリーンのCompaq Presario X1010へLonghornをインストールした。私も昼過ぎまでにはIBM ThinkPad R50とDell Latitude D800へのインストールを完了させ,さらに「Virtual PC」ベースの仮想マシンへ初めてのインストールを開始した。

 とんでもなくひどいものだった。Longhorn Build 4051は「Slate」と呼ばれる「Luna」に似たビジュアル・スタイルが取り入れられているのだが,気づいてみると,これは見栄えはよいのだが「Aero」ユーザー・インターフェースをWindows XPにバックポートしたものだ。いってみれば,XPのようなのだ。しかし,もっと悪いことに,パフォーマンスが非常に悪い。最悪なのは,6月に発表されたアルファ版からの大幅な変更点が無いようであり,自慢の種であった「Windows File System(WinFS,以前はWindows Future Storageと表記されていた)」関連が機能しないことである。特に私たちが所持していたノート・パソコンでは,ハードウエア検出にかかる時間がとてつもなく長かった。それにexplorer.exeのメモリー・リークは,システムに残されたわずかな性能さえも,食いつぶしてしまうのだ。これはほとんど悲劇といってよかった。

 Keithと私は午後1時45分に,私たちが運営する「WinInfo Daily UPDATE」というデイリー・ライブ・ポストにLonghorn 4051についてのアップデートを行った。その内容は「否定的に聞こえるだろうが,残念ながらLonghorn Build 4051はつまらない」といったものだった。

 「ちょっと面白いSlateデスクトップ・テーマと苦痛なほど長いハードウエア検出を乗り越えた先にあるのは,使いやすくなったとはいえ基本的に前回までのアルファ版と変わらないものだ。Explorerウインドウには,Aeroに似たビジュアルが備えられてはいるが,どうやらそれだけらしい。現時点ではこれ以上伝えるべきことも見当たらない。私たちは3台のマシンに4051をインストールしてみたが,感心するものはあまりなかった」。

 4051を数時間にわたっていじったその日の夜,さらなる感想を付けてポストを更新した。少し長くなるが引用しよう。

「まだ私たちはあまり満足していないのだが--明日のBill Gates氏の基調演説が納得のいくものでなければ,説明を求める声がいたるところで上がるだろう…少なくともこのビルドで何が起こっているのかの主旨は理解できた。まず,512Mバイト以下のRAMしか搭載していないマシンでの動作はかなり苦しいので,これを最低のシステム・メモリー容量としておくべきだ(Windows XPでの256Mバイトからのアップグレードである)」。

「新しい[content aggregator Libraries]は,前回までのアルファ版に比べ使いやすくなっているのに加え,現在使われている多くのグラフィックス要素は,Aeroベースのバージョンが出たときのための代替品であることが明白だ。例えば,Mac OS Xで可能なのと同様に,すべてのExplorerウインドウ中のアイコンは,スケーラブル対応だ。ここでの違いといえば,現在のアイコンは今まで使い古されてきたビットマップ画像で,うまくサイズ調整できないことくらいだ。この問題は,新しいAeroユーザー・インターフェースでは解消されているのだろう」。

「[Contacts]はファイル・システムに直接統合されており,これはファイル・システムの新しいデータベース能力を考えると理にかなう。デジタル画像関連では,Image Previewに単純な赤目除去機能やクイック・フィックス機能が追加され,Paint(あのPaintである)では新しいズーム機能でこのアプリケーションを使い道のあるものにしているなど,よりいっそう機能が強化されている。奇妙ではあるが,Outlook Express 7は,MSN 8.5に似せて大幅に改良がなされている。正規リリース時にはバージョン7になっているはずのInternet Explorer 6.05にはポップアップ広告ブロック機能やダウンロード・マネージャが追加されている」。

 しかしながら,私たちの失望は明白だった。Aeroユーザー・インターフェースはLonghornの正規リリース版への導入こそ予定されているが,今回私たちが手に入れたPDCビルドでは意図的に割愛されていた。そして,その初披露を約束した,Gates氏の講演に期待した。ただし,われわれの期待感は明らかに消え去っていた。どうしてLonghornの正式リリースまでに2年も必要なのかを疑問に思うより,Microsoftがそんな短期間でこの出来損ないを本当に完成させられるのかを怪しむようなってしまったのである。