◆ユーザーの課題◆従来の代理店支援システムは,メインフレームとパソコンを使ったホスト/端末システムだった。しかし,クライアント・アプリケーションの更新が頻繁にあるため,管理負担が大きかった。

◆選んだ解決策◆新しく代理店支援システムをWeb化することにした。WindowsベースでWebサーバー,アプリケーション・サーバー,データベース・サーバーから成る3層構造のシステムを開発した。

◆結果と評価◆エンドユーザーの操作性が向上し,クライアント・アプリケーション更新の負担がなくなった。情報システム部門の負担も減った。

 2002年7月に安田火災と日産火災海上保険が合併して誕生した損保ジャパン――。同社は合併に先駆けて同年6月からWebによる代理店支援システム「SOMPOJ-NET」をスタートさせた。

 損害保険会社にとって,代理店は顧客と直に接するとても重要な存在だ。代理店は,顧客にコンサルティングを行い,契約を交わし,保険料の集金を行う。事故があると,その後の処理も行わなければならない。

顧客管理や営業ツールなど
16のメニューをWebブラウザで利用

図1●損保ジャパンの代理店支援システム「SOMPOJ-NET」のメニュー画面
メニューには,情報提供,収支・会計,顧客管理,掲示板・メールなど16のシステムがある。

 「SOMPOJ-NET」は代理店の業務を支援するシステムで,代理店の従業員がWebブラウザを使いサービスを受けられるようになっている(図1[拡大表示])。

 メニューは「顧客契約管理」や「保険料収納管理」などの管理ツール,「コンサルティング」や「保険設計」「リスク分析」などの営業ツール,さらに「スケジュール管理」「ToDo管理」「掲示板・メール」などのコミュニケーション・ツールなど,全部で16のメニューから成っている。

 同社子会社で今回のシステム開発を行った損保ジャパン・システムソリューションの小澤 淳代理店システム事業部長は,「当初『無謀ではないか』とまで言われた。損害保険会社にとって,基幹システムである代理店支援システムをWeb化したことと,それをWindowsベースで構築したことは,かなり思いきったプロジェクトだった」とシステムの革新性を語る。それでもWeb化する目的は,「なんといっても代理店の負担を軽減し,利便性を高めること」(損保ジャパンの水野洋一情報システム部課長代理)だった。

アプリを毎月更新する負担がWeb化により一掃

図2●代理店支援システムをWeb化したメリット
従来のシステムでは,修正プログラムを開発したあと,17種類あるクライアントの動作環境での検証作業をした。さらにCD-ROMを配布して,代理店側がインストールするといったメンテナンスがかなりの負担になっていた。Web化することで,代理店側は利便性が向上し,損保ジャパン側もメンテナンスが容易になった。

 従来の代理店支援システムは,代理店にあるパソコンの端末が同社のメインフレームへダイヤルアップで接続するホスト/端末システムだった(図2左[拡大表示])。パソコンはWindowsプラットフォームで,そこで稼働するクライアント・アプリケーションは,Visual Basicで開発していた。

 同社の代理店は約8万店あり,このうち約半数が電子化されているという。代理店と一口にいっても大きな事業所を構える専業代理店もあれば,自動車整備会社が代理店業務を行っているところもある。また,専業の会社以外に,企業や銀行の中で代理店の端末を持っているところもある。

 規模も形態も多様であることが象徴しているように,ITの習熟度にもばらつきがある。代理店の従業員にアプリケーションの操作を覚えてもらうには,それなりの負担があった。

 アプリケーションの操作よりも負担を強いていたのは,そのメンテナンスである。年金制度が変わったり,新しい損保商品が出ると,アプリケーションを修正しなければならない。その頻度は月に1回はあったという。代理店は毎月郵送されてくるCD-ROMを使って,アプリケーションのバージョンアップを行う必要がある(図2左[拡大表示])。

 一方,同社の開発部門は,毎月のようにアプリケーションの修正を行い,動作検証をする。「Windowsの種類やパソコンの機種によって動作が不安定なことがある。ハングアップは致命的なので動作検証は欠かせない」(小澤氏)という。動作検証するプラットフォームの種類は,Windowsのバージョンの違い,組みこまれているモジュールの違い,パソコン機種の違いの組み合わせで17種類にも及んだ。そして,修正プログラムは,CD-ROMに焼いて郵送や訪問によって配布していた。

 代理店支援システムをWeb化することにより,これらの負担は一掃された。代理店側は,まず操作性がWebブラウザとWebページのGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)になり利用しやすくなった。しかも,毎月のように実施していたバージョンアップ作業がなくなった(図2右[拡大表示])。

 損保ジャパン側も,Webサーバーのコンテンツの修正だけで済み,プログラムの配布がなくなった。動作検証もWebブラウザのバージョンによる検証程度で,大幅に軽減された。

(木下 篤芳=kinosita@nikkeibp.co.jp)