Exchange 5.5には課題が多かった

 サーバー統合と同時に,これまでのExchange Serverが抱えていた問題の一掃も図った。警備保障サービスを提供するセコムは,業務を24時間・365日止められない。業務遂行上の情報共有インフラとして欠かせない存在になっていたExchange Serverにも,ノンストップ運用が求められていた。

図2●新しいExchange Serverシステムの概略図
データ・センターを新設するとともに,メールボックス・サーバーを1台のES7000に統合した。新設したデータ・センターにはセコムと関連会社全社からのアクセスが集中する。

 それにもかかわらず,従来の運用ではメールボックス,パブリック・フォルダ,インターネット・メールと連携するSMTP Connectorが冗長構成になっていなかった。幸い,導入後3年間にハードウエア障害は発生していなかったが,「いつ障害があるか分からない」という心配が絶えなかった。

 運用や機能面の不満もあった。Windows NT 4.0とExchange Server 5.5の組み合わせでは連続稼働に問題があったため,定期的なリブートを強いられていた。また,Exchange Serverの機能をWebブラウザから使えるようにする「Outlook Web Access」の機能が,セコムの要求に達していない点も不満だった。

 そこでセコムは,2002年10月に図2[拡大表示]のようなシステムを稼働させた。最もサーバー台数を必要としていたメールボックス用サーバーを1台のES7000に統合し,余ったサーバー・マシンを使ってSMTP Connectorとパブリック・フォルダの冗長化に充てた。サーバーOSはWindows 2000に,グループウエアもExchange 2000 Serverにアップグレードした。このシステム統合に合わせて,社員人事データベースとActive Directoryのユーザー・アカウントを同期させる「アカウント管理システム」やExchange 2000 Serverの運用監視システムも導入した。

障害発生時は3分で切り替え可能

図3●ES7000上の4ノード・クラスタ構成
Windows 2000 Datacenter Serverを稼働させたES7000を4つのパーティションに分割。4ノードのクラスタ構成とした。1ノード当たりのユーザー数は現状で約5000人。本番系の3ノードのうち1ノードに障害が発生した場合,待機系ノードに3分以内でフェイル・オーバー可能。

 このシステムの最大の特徴は,ES7000を4つのパーティションに論理分割し,これらのパーティションを使って4ノード・クラスタ構成にしていることだ。4ノード中の3ノードを本番系に使用し,残りの1ノードを待機系に割り当てている(図3[拡大表示])。データはすべて日本ユニシスのストレージ・システム「SANArena 1200」に格納し,4つのノードで共有している。1ノードに障害が発生した場合は,3分以内に待機系にフェイル・オーバーできる。

 システムをクラスタ構成にする場合,しばしば問題となるのはハードウエア利用の効率性である。例えば2ノード・クラスタであれば,本番系と待機系で同じ規模のハードウエアが必要となり,全体で見たハードウエアの利用率は50%になってしまう。その点,4ノード・クラスタなら本番系のハードウエア利用率が75%まで改善する。

 ただし,Windows 2000で4ノード・クラスタに対応しているのはWindows 2000 Datacenter Serverだけだ。同Advanced Serverより割高ではあるが,「ハードウエアの利用効率を上げるためには,これ以外に選択肢はなかった」と寺井担当部長。Exchangeの4ノード・クラスタ・システムはこれが国内初の事例という。

 セコムは新システムに移行する際,人事情報データベースを元にActive Directoryのユーザー・アカウントを自動的に更新する「V-Frame」(丸紅ソリューションズ)というパッケージ・ソフトを導入した。従来のアカウント管理システムはセコム・グループ社員以外のユーザー(協力会社の社員や派遣社員など)のアカウント管理は自動化されていなかったが,同ソフトによってActive Directoryのアカウント管理を完全に自動化した。

 拡張性のあるES7000を採用したため,今後,ユーザーが4万人に達するまで現行サーバーで対応できる。当面はハードウエア投資や管理コストを抑えられる見通しだ。「Exchange Serverの稼働環境が統一されたため,Exchangeと連動する業務アプリケーションも作りやすくなった。Exchange Serverをさらに有効活用できるようになる」(寺井担当部長)という。冗長化により,パブリック・フォルダを情報共有の手段として安心して利用できるようになったことも新システムのメリットの1つだ。

 今回は,4ノード・クラスタ構成による効率的なサーバー統合を実現した。さらに次期OSのWindows Server 2003は,最大8ノード・クラスタ構成に対応する。寺井担当部長は「サーバー統合を今後も進めていく上で,Windows Server 2003を利用することも検討している」と語った。

(中田 敦=anakada@nikkeibp.co.jp)