◆ユーザーの課題◆製薬会社のアベンティス ファーマは,病院などを回る営業にPHSとノート・パソコンを配布。出先からでも自由に商品情報などをチェックできるようにしたが,通信速度が遅かったことからユーザーに十分な操作性を提供することができなかった。

◆選んだ解決策◆Windows 2000 Serverに搭載したMetaFrameを利用することで,ノート・パソコンとの通信量を大幅に削減。PHS通信でも通常のLAN接続とほとんど変わらない実用的な操作環境を実現した。

◆結果と評価◆現時点で導入しているシステムには基本的には満足している。ただし,画面表示の改善など,今後予定している他のシステムへの適用拡大にあたってはMetaFrameにいくつかの注文がある。

 アベンティス ファーマは,ドイツのヘキストとフランスのローヌ・プーランが1999年末に合併して誕生したグローバルな製薬会社の日本法人である。主に糖尿病やアレルギー疾患向けといった医薬品を専門の医師向けに販売している。国内約2700人の従業員のうち,病院などを回って医薬品の説明をするMR(Medical Representative:医薬品情報担当者)と呼ぶ営業が約1500人と半分以上を占めている。

営業支援情報を外出先から利用可能に
C/S型では通信の負荷が問題に

図1●アベンティス ファーマはMetaFrameを利用することでノート・パソコンとの間の通信量を大幅に削減した
Siebel向けのクライアント・ソフトで利用するデータをダウンロードしなくて済むようにした。途中で通信が切断された場合も以前は初めからやり直さなければならなかったが,MetaFrameを使うと切断した状態からやり直せる。

 アベンティス ファーマでは,営業力を強化するためにMRにノート・パソコンとPHSカードを配布。営業先の病院などオフィス以外の場所からでも,製品や顧客に関する適切な情報を,必要に応じてすぐ取り出せるようにした。例えば,製品の臨床データや学術情報,顧客の購買実績といった情報を,いつどこからでも確認できるようにすることを目指した。

 当初は,CRMソフト「Siebel」向けのクライアント・ソフトをノート・パソコンに搭載するクライアント/サーバー型のシステムで構築した。しかし,このシステムではクライアントに独自のデータベースを保持する必要があり,ユーザーにとっては使いづらいシステムとなってしまった(図1[拡大表示])。データベースを定期的にホストのデータベースとリンクする必要があったからだ。

 このリンク作業は通常1日1回でよいが,それでも約30分程度の通信が必要となった。しかも,ダウンロードしておかなかった情報が必要になった場合には,別途ホストと通信をすることが必要となったり,同期中に通信が途切れると最初から通信をやり直さなければならず,ユーザーの負荷は大きかった。

MetaFrameで画面情報のみを送信し通信量を大幅に削減

 そこで,ノート・パソコンとの通信量を削減するためにWindows 2000 ServerのMetaFrameを導入した。サーバー上の仮想デスクトップでSiebelのクライアント・ソフトを動かし画面情報のみをノート・パソコンに転送するようにすれば膨大なデータをダウンロードする必要がなくなると考えた。

 導入にあたっては,もちろん事前に検証を実施した。まず,もっとも危ぐされるPHS環境でのレスポンスに関しては,テスト環境を構築して実際に測定してみた。トレーニング・ルームを使って同時に200~300人が利用するなどストレス試験まで実施し,ほぼ大丈夫という結論に至った。

 MetaFrameを使うと,通信が途中で切れた場合の対応が簡単な点も評価した。前述したようにクライアント/サーバー型では,途中で通信が切断されると,また初めからやりなおさなければいけなかった。しかし,MetaFrameではユーザーごとに接続内容を管理しており,通信が不安定で回線が切断されても改めて再接続すれば切断時点の状態から作業を再開できる。データの破損といった重大な障害が発生する可能性も少なくなるため,エンドユーザーが混乱する事態になる危険性も少なくなる。

Web化も同時に検討したがお金がかかって実り無しと判断

 MetaFrameだけではなく,Webアプリケーションに作り直す,いわゆるWeb化も検討した。ただし,今回対象としたMR向けのシステムは表やグラフを使った内容が多い。そのため,単純なHTMLだけを使った画面では表現力の点などで不満があった。

 さらに,Web化するにはアプリケーションに大幅な修正を加えることが必要となり手間とコストがかかる。システムの操作性も変わるため,ユーザーの再教育などについても大きな労力が必要となる。

 こういった比較から,「Web化はお金と苦労が必要となる割にメリットがない」(インフォメーションソリューション部コマーシャルオペレーショングループS&Mアプリケーションチームの宮川洋一郎マネジャー)と判断してMetaFrameの採用を決めた。MetaFrameならばアプリケーションは,これまでWindowsで使っていたものがそのまま利用でき,新たな開発やユーザーの教育が必要ない。

(根本 浩之=nemoto@nikkeibp.co.jp)