◆ユーザーの課題◆日本航空(JAL)は,カンパニー制の導入や分社化などで推進してきたグループ経営を強化する新しい基幹系システムの構築が求められていた。一方,情報系でも部門やグループ各社によってシステム化にばらつきがあり,効率的に連携作業をすることが難しかった。

◆選んだ解決策◆基幹系システムはSAP R/3を中心としたパッケージで再構築し,情報系システムはExchange 2000とSharePoint Portal Serverを使って新規に構築。プラットフォームは将来性を評価してWindows 2000 Advanced Serverに統一した。最終的にはグループの全社員4万人が利用する。

◆結果と評価◆グループ全体の経営状況をリアルタイムに近い状態で把握でき,全社の方針に合わせて各部門ごとに戦略を立てる統括的な経営を目指す。全社員がメールや文書の共有などに関して,ほぼ均一なITサービスを利用できる環境も整えつつある。

図1●JALのシステム構成
基幹系のe-JALでは約60台,情報系のe-WorkStyleでは約30台のWindows 2000 Advanced Serverを利用している。レガシー・システムとはSAN(Storage Area Network)経由で情報を交換する。
 日本航空(JAL)は関連企業を含めたグループ全体の社内ITプラットフォームをWindows 2000に一新する2つのプロジェクト「e-JAL」と「e-WorkStyle」を進めている。e-JALは会計や経理などの基幹系システムを,e-WorkStyleは各部門の情報活用といった情報系のシステムを構築するプロジェクトである。今回,JALはグループ全社員が利用する両システムを約90台のWindows 2000 Advanced Serverを使って全面再構築した(図1[拡大表示])。

グループ全社にERPソフトを導入へ

 e-JALプロジェクトで構築したのは,会計や経理,調達といった全社レベルの基幹系業務を処理するシステムだ。JALは既にメインフレームやUNIXマシン上の独自アプリケーションで処理していた業務をWindows 2000 Advanced Server上のSQL Server 2000 Enterprise EditionとSAP R/3に移し,5月に先行稼働させた。このシステムをグループ各社にも展開する。現時点で,対象となるグループ企業56社のうち約半数に導入が完了した。残りの半数の企業にも2003年4月までに導入する予定だ。

 狙いは,国際会計基準への対応とグループ経営強化の2点にある。特に2001年からの中期計画で柱の1つとしたグループ経営を強化する狙いが強く,全社にERPを導入することでグループ全体の経営状況を素早く的確に把握できることを目指している。

 例えば予算を作成するとき,これまではJALやグループ各社がそれぞれ国際/国内/貨物,整備/運航/機内食といったセグメントごとに積み上げていた。だが,今後はこれとは逆に,グループ全体の収支やサービスの計画から各社/各部門に最適な予算を割り振るようにする。JALグループの方針に合わせて,各セグメントで予算に応じた適切な戦略をとれるようになる。

実機を使ったシステム検証と将来性からWindows 2000を選択

 システムの選定に当たって重視したのは,「世の中で標準となりつつある技術を採用すること」(経営企画室e-JAL推進部副部長の高橋純一氏)。特に,現時点での機能比較よりも将来性に重点を置いたという。例えば,核となるERP*ソフトはルフトハンザ航空やスイス航空といった他の航空会社の事例を調べた結果,パッケージでも航空業界の基幹システムを運用するノウハウができあがりつつあると判断。その中でもSAP R/3が標準と考え,導入を決定した。

 プラットフォームとなるソフトウエアは,(1)UNIXとOracle,(2)Windows 2000とOracle,(3)Windows 2000とSQL Server,という組み合わせを比較検討した。JALは実機を使った性能検証やベンダーの協力体制などを考慮した結果,最終的に(3)の組み合わせを選択した。

 特に,SAP R/3上で最高速のベンチマーク値を記録したSQL Serverとの相性を評価した。「SQL Serverのほうが細かなチューニングをしなくともパフォーマンスを引き出しやすい」(高橋氏)という判断も働いた。

 価格面で見ると,UNIXと比べてWindowsのほうがハードで約2億円,ソフトで約1億円ほど安くなるという点も大きな魅力だった。

(根本 浩之=nemoto@nikkeibp.co.jp)