Windows XP Professionalの出荷が始まった。同時に導入可否の判断に必要となる詳細な仕様や注意点も明らかになってきた。判断のポイントには,アプリケーションの互換性,ハードウエアの互換性,ネットワーク機能,性能,が挙げられる。互換性の問題はあるが,これまでのバージョン・アップ時と比べ,改善している。性能は,メモリーが十分ある前提で,改善された。

図1●Windows XPのよくある疑問と回答

 2001年11月16日,マイクロソフトのクライアント向け新OS「Windows XP」の出荷が始まった。同時に製品の機能や仕様の詳細が明らかになり,導入すべきかどうかを具体的に判断できるようになった。既に企業クライアントとして「8000台規模の企業で全社導入を始めた会社もある」(マイクロソフト 製品マーケティング本部 Windows製品部 クライアント グループ プロダクトマネージャー 永妻恭彦氏)*1という。

 判断のポイントは主に4つある。(1)アプリケーションの互換性,(2)ハードウエアの互換性,(3)ネットワーク機能,(4)性能――である(図1[拡大表示])。アプリケーションの互換性問題はあるものの,これまでのバージョン・アップ時と比べて大きく改善している。ハードウエアの互換性も企業での利用に限れば,ほぼ問題ない状況といえる。ネットワーク機能は,Home Editionとの機能差や無駄な機能に注意する必要がある。性能は,Windows9x/Meと比較してメモリー消費量が増えたためかスワップ時の性能劣化が激しいが,十分なメモリーがある環境ではWindows Me/2000から若干改善した。

 以下では,Windows XP Professional 製品版を試用した結果を踏まえ,これらのポイントを解説していく。

ポイント1
アプリケーション互換性

 Windows XPを導入した際に,“既存アプリケーションが動作するのか”がまず問題となる。これまでのWindowsでは,互換性を保つ上で決定的な弱点があった。Win32 APIは同じであっても,OSやDLLのバージョンによって動作が異なることである。米Microsoftは「Windows XPの開発においてこの問題を最も重視」し,既存Win32アプリケーションの8割を動作させる目的で「AppFix」を開発した。このAppFixは実際に有効なのかを調べた。

APに合わせて動的にパッチ適用

図2●アプリケーション互換性保持機能「AppFix」の動作原理
アプリケーション・ローダーが,アプリケーション読み込み時にアプリケーションの互換性をチェックし,互換性モードが必要な場合は,2001年12月27日時点で195種あるパッチから,必要なものを選択して実行する

 まず動作は,以下のようなものだ(図2[拡大表示])。「アプリケーション・ローダー」と呼ぶOSを構成するコンポーネントが,アプリケーション読み込み時に互換性問題の有無をチェックする。そのチェックにはOS内にある互換性のためのデータベースを参照する。互換性に問題がある場合は,「互換性モード」に移行し,パッチを自動的に適用して動作する。ただ,速度は落ちる。

 パッチは,OS側で部分的に旧OSのエミュレーションのような動きをするプログラムである。これまでなら,OSの変更に対応するためにアプリケーション・ベンダーが修正していたが,これによりアプリケーション側の対応が必要なくなる。例えば,アプリケーションからOSのバージョンを確認する場合にWindows95に見せかける「Win95VersionLie」や,デバイス・ファイルに書き込み権限を与える「AddWritePermissionsToDeviceFiles」などである。これらは前述した互換性のためのデータベースに格納してある。2001年12月27日時点でパッチの数は195個。このデータベースは,OSの自動更新機能である「Windows Update」を使えば,自動的に更新できる。

 編集部でこの機能を試用した結果,Windows 2000ではそのまま動作しなかったWindows95用アプリケーションや,Visual Basic(VB)のランタイムなしでは動作しなかったVBアプリケーションが,Windows XP上では単にセットアップしただけで動作した。「AppFixが対象にしているのはWin32 APIで記述された製品。Windows95以降でWin32を守って記述していればほとんど動作するはず」(マイクロソフト 製品マーケティング本部 Windows製品部 クライアント グループ プロダクトマネージャー 佐藤秀一氏)という。検証は必要だが,これまでの新Windowsに対応させる場合ほど工数をかけずに,Windows XPに対応させられるだろう。

アンチ・ウイルスに注意が必要

 ただ,AppFixは万能の互換性技術ではない。利用するアプリケーションにかかわる特定の互換性問題に対応するパッチがなければ,無意味である。ファイル名をハード・コーディングしたり,Win32 APIを介さないハードウエアへのアクセスをしたりするアプリケーションに対して,マイクロソフトはパッチを提供しない見込みである。その場合はアプリケーション側での修正が必要になる。

 企業で利用する市販アプリケーションでこのような問題が発生しやすい代表的なソフトが,アンチ・ウイルスである。多くのオフィス向けアプリケーションは既に対応済みだが,例えばトレンドマイクロの「ウイルスバスター コーポレートエディション」はまだWindows XPに対応していない。

ポイント2
ハードウエアの互換性

 ハードウエアの互換性は,NICやプリンタなど企業で利用する周辺機器に限れば,既にほとんど問題ない*2

WDMは動作,VxDは動作しない

 あるハードウエアが動作するかどうかは,Windows XPで動作するデバイス・ドライバが入手できるかどうかによる。確実に動作するデバイス・ドライバはWindows XP用のものだけだが,既存OS向けのもので,Windows XPで動作するものもある。「Windows 2000用でWDM形式のデバイス・ドライバは,ほぼ動作する。同じWindows 2000向けであってもVxDのものと,Windows9x系向けのドライバはほぼ確実に動作しない」(佐藤氏)。

 また,一部の製品では,デバイスのメーカーが対応を表明していないものの,Windows XPのCD-ROMにはマイクロソフト製のWindows XP用デバイス・ドライバが含まれているケースもある。「通常の使用であれば問題なく動作する」(同氏)。これらの状況から,既存ハードウエアの互換性は,アプリケーションに比べれば心配は少ないといえる。

(矢崎 茂明=yazaki@nikkeibp.co.jp)