フューチャービーツは,携帯電話向けのEC(電子商取引)サイトを,3カ月という短い開発期間で立ち上げた。システム開発を担当したインテグレータが,フレームワークを利用することで開発効率を向上させた効果である。開発途中での機能追加や,ソフトウエアの変更に柔軟に対処した。各ブラウザ・フォンに向けたコンテンツ変換機能も,専用ソフトウエアを導入することにより,いち早く実現した。

(福田 崇男=tafukuda@nikkeibp.co.jp)

 EC(電子商取引)を提供する場合,やはりスピードが重要である。いかに短期間でシステムを開発し,サービスを開始するかが成否を左右する。フューチャービーツが3月25日に立ち上げた携帯電話向けのECサイト「anycode」は,このスピードを実践した例である。

 システムの設計・開発を開始したあとで,大きな機能追加やデータベース管理ソフトの変更があった。にもかかわらず,3カ月という短い開発期間で,サービスを立ち上げた。

 いくつかの大きな変更などがあっても,短期間で開発できた理由には,フレームワークの活用がある。フィーチャービーツが開発を依頼したインテグレータが使っていたフレームワークが奏功した。

写真1●「anycode」サービスの利用画面
8ケタの数字を入力すると,商品の紹介画面に移る。
図1●「anycode」サービスは,商品を購入するための操作を容易にする
雑誌などを見たユーザーが,商品に付いている8ケタの番号を入力すると,その商品を購入するWebページが表示される。URLのような長い文字列を入力せずにすむ。
図2●Webサイトの品質向上に向けたこれまでの取り組み
Webサイト上で予約受け付けサービスを提供し始めて以来,サーバー・マシン(メインフレームも含む)の増設・増強,アクセス回線の増速とマルチホーミング化などを随時実施してきた。特に負荷が高かったGIFファイル配信部分だけを切り出し,インターネット・データセンターに設置(ホスティング)した専用サーバーから配信する構成をとった。

8ケタの番号を入力

 anycodeは,携帯電話向けECサイトのASPサービスである。携帯電話を持つユーザーに,商品を販売したい業者が,anycodeの場を借りる。

 anycodeでは,ユーザーが携帯電話で簡単に商品を購入できるようにする工夫がしてある。商品を雑誌などに掲載する際に8ケタの番号も付記しておき,anycodeのWebサイトでその8ケタの番号を入力すれば目的の商品にたどり着ける(写真1)。ユーザー認証を済ませて,anycodeを入力すると,すぐに商品の購入ページが開く(図1[拡大表示])。ほかのECサイトのように,URLのような文字列を入力したり商品を探したりする必要がない。文字入力や操作の手間が軽減され,ユーザーが商品を購入しやすくなる。iモード,J-スカイ,EZwebのいずれのブラウザ・フォンでも利用できる。パソコンからもアクセス可能である。

 商品を販売する業者は,iモードなどを使ってWebページを管理する。商品の説明文を編集したり,アンケートを設けたりできる。「パソコンを置いていない業者でもサービスを利用できるように考えた」(フューチャービーツの元杭 美穂氏)。

 決済システムには,佐川急便の「e-コレクト」を採用した。配送担当者が,商品の配送時にクレジット・カードやデビット・カードなどで決済するサービスである。商品は佐川急便の配送センターの倉庫に置いてあり,ユーザーが購入すると,そこから配送される。

フレームワークを持つインテグレータに開発を依頼

 フューチャービーツは当初,anycodeにECサイトとしての機能を組み込むことは予定していなかった。システム設計を始めた2001年10月の時点では,携帯電話を使って操作できる予約システムを予定していた。

 たとえば,美容院の予約での利用を考えていた。美容院の顧客が,携帯電話を使ってお気に入りの美容師を予約するという使い方である。美容師自身が出勤する日時をWebサイトに登録しておくなど,顧客だけではなく,店舗側でもiモードなどの携帯電話を使ってアプリケーションを利用することも考えていた。

 フューチャービーツは,この予約サービスをなるべく早く開始したかった。可能ならば2001年内にも。つまり,3カ月という短期間で携帯電話向けのWebアプリケーションを開発してくれるインテグレータを探した。いくつかのインテグレータと相談した結果,Java専門のインテグレータである慶(東京都豊島区)に開発を依頼することにした。

 慶は,「KS3Frameworkという独自の開発フレームワークを持っており,短期間で開発可能だと判断した」(慶 Webシステム開発事業部の吉沢 和雄氏)という。

 KS3Frameworkは,MVCモデルに準拠している。モデル(M),ビュー(V),コントロール(C)に分けてアプリケーションを実装することにより,変更や修正をしやすくするモデルである。画面生成用のJSP(Javaサーバー・ページ)ファイルにどのようなパラメータを記述するか,どのようなBeanを開発すればよいかといった手順書を用意している。また画面遷移の管理や,データベース接続,入力データのチェックといった,Webアプリケーションがよく利用する機能もあらかじめ備える(図2[拡大表示])。

ECサイト機能を追加

 当初,フューチャービーツが慶に依頼したのは,前述の予約システム。しかし,ビジネス・モデルを模索しているうち,数字を入力だけで商品を購入できるECサイトの方がニーズが高いと判断。予約システムよりも,ECサイトの機能を優先して実装してもらうことに変更した。これが12月上旬のことである。その時点ではシステム設計が終わり,すでにアプリケーションの実装が始まっていた。

 MVCモデルのフレームワークを利用しているため,機能の追加や変更は容易であった。また,KS3Frameworkが,画面遷移の情報やSQLの内容を別ファイルに保持し,それをアプリケーションが読み込むという仕組みも変更しやすさにつながった。この別ファイルを編集すれば,業務ロジックを変更できる。アプリケーションのソース・コードを編集し,コンパイルし直すといった作業は不要である。このような特徴があるため,ECサイト機能を追加することになったものの,大幅に作り直さなくて済んだ。