無線LANやPHSのデータ通信機能を使って,IP電話を実現するサービスが登場する。いわゆるモバイルIP電話である。VoIP技術を使って音声をパケットとして伝送することで,通信コストを抑える。現行の携帯電話よりも格段に安い料金で通話できる。なかには定額制の料金を計画するサービスもある。端末には,PDAや携帯型の専用端末を使う。

(福田 崇男=tafukuda@nikkeibp.co.jp)

図1●無線LANやPHSなどを使ったIP電話サービスが相次いで登場する
携帯電話よりも安い通話料で利用できるIP電話サービスが始まる。携帯電話の代わりにVoIPの機能を搭載したデバイスを使用する。
 無線LANやPHSのデータ通信機能を利用して,屋外で格安に電話できるサービスが相次いで登場する(図1[拡大表示])。音声をパケット化して伝送するVoIP(IP網を使った音声通信)技術を使ってコストを抑える,いわばモバイルIP電話サービスである。

 ブロードバンドモバイルコミュニケーションズ(BMC)が4月に,アイピートークが今秋にそれぞれ無線LANを使ったサービスを始める。ジャパンメディアネットワーク(JMネット)は5月にも,現行携帯電話機を使うIP電話サービスを開始する。鷹山はPHSを利用したサービスを,2004年春に予定している。シャープが無線LAN接続サービスと提携して実験を進めている。

 モバイルIP電話サービスの端末には,PDA(携帯情報端末)や専用端末などを使う。

 料金は,現行の携帯電話よりも格段に安くなる。たとえば,アイピートークの「モバイルIPTalk」は,フュージョン・コミュニケーションズなどが提供する固定のIP電話サービス並みの料金である。携帯電話の通話料金が高いため,割安感が大きい。モバイルIPTalkのユーザー同士なら無料,固定電話への通話は全国3分8円である。鷹山は,一定時間までは定額の準定額制を考えている。JMネットやBMCは,定額制を予定している。

 ただし,サービス地域は広くはない。鷹山のPHSを使うサービスは,関東の一都八県が対象である。無線LAN接続サービスでは,利用できる地域がもっと限定的である。アイピートークの場合,主に企業向けのサービスであり,企業内に基地局を設置する。

無線LAN接続のインフラをベースに

 無線LANを使うモバイルIP電話サービスは,インターネット接続用のネットワークをベースに実現する。データ通信用ネットワークに,電話番号で相手と接続する機能と,固定電話網と接続する機能を付加している。ただし,シャープの実験では,固定電話との接続機能を用意していない。

図2●アイピートーク「モバイルIPTalk」サービスの仕組み(概要)
内線番号を使って電話をかけて,セッション管理サーバーに通話相手のIPアドレスとポート番号を問い合わせる。そのIPアドレスとポート番号に接続して通話する。

 音声パケットを64kビット/秒で符号化して伝送する。PDAなどから固定電話に電話をかけられるが,その逆の着信はできない。同じサービスのユーザー同士ならば,基本的に着信可能である。その際,端末の指定にIPアドレスを利用することになる。とはいえ,IPアドレスでは使いづらいなどの理由から,サービス独自で割り当てた電話番号を使うようになっている。

 たとえば,アイピートークは,通話相手の内線番号からIPアドレスを探し出すセッション管理サーバーを運用している(図2[拡大表示])。

 相手先の内線番号をダイヤルすると,セッション管理サーバーから相手先のIPアドレスとポート番号を取得する。そのIPアドレス/ポート番号を使って,実際の相手先に接続する。

 端末がプライベートIPアドレスを使用している場合は,ファイアウォールなどのNAT(ネットワーク・アドレス変換)の設定を変更する必要がある。インターネットからあるポートにアクセスがあると,それを特定IPアドレスの端末に転送するように設定を変更する。