図2●GMPLSの動作の様子
WDMで多重化された入力信号に対し,各波長ごとに仮想パスを設定し,光信号のままスイッチングする。機器の中核はルーターと光クロスコネクト・スイッチ。スイッチとルーターを統合するため,IPレベルでパス切り替えなど光スイッチ・ネットワークを制御できる。制御用の信号は,専用の波長を割り当てるなど別の制御チャネルを割り当てることになりそう。

MPLSを光ネット用に拡張

 概念的には,GMPLSもほとんど同じである。GMPLSは,文字通り,MPLSを一般化した技術。ここで言う一般化とは,MPLSの適用範囲を,ATMやフレームリレーといったパケット多重型のネットワークだけでなく,TDM(時分割多重)や光波長多重のネットワークにまで拡大すること。このうち,一番注目されているのが,光波長を経路制御の情報として扱える「MPλS(マルチプロトコル・ラムダ・スイッチング)」である。もちろん,技術の特徴はMPLSとほぼ同じだ。

 例えばスイッチング処理。GMPLSでは,光ファイバや多重化された波長の1つ(TDMの場合はタイム・スロット)をラベルとして扱う。ラベル情報がパケットのヘッダーに含まれるMPLSとの一番大きな違いはここだ。GMPLSルーター(光クロスコネクト)は,波長をベースに光信号をそのままスイッチングするため,スイッチング処理は高速化される(図2[拡大表示])。

 次にネットワークの制御。実データ(光信号)とは別に制御用のチャネルを設定して,GMPLSルーター間を結ぶ。この制御チャネル上でIPベースのシグナリングや経路制御を実行。クロスコネクト部にスイッチング用の経路情報だけを提供するため,実データの転送処理は光,制御はIPという仕組みを実現できる。さらに,LSPごとに物理的な経路を切り替えるなどのトラフィック・エンジニアリングも可能だ。

光IPネット化は2つのフェーズで

 実は,光IPネットワークの構築は,一足飛びにGMPLSネットワークになるとは限らない。例えば,米シスコ・システムズは,2つのフェーズを想定している。

図3●光ネットワークの2つの実現形態
ユーザーが既存のネットワークを光ネットワークに接続して利用するオーバーレイ・モデルと,ユーザー自身の光ネットワークを他の光ネットワークと接続して全体を光ネットワーク化するピア・モデルがある。GMPLSが目指しているのは,このうちのピア・モデル。製品への実装が先行しているのはオーバーレイ・モデルを実現するためのO-UNI(オプティカル・ユーザー・ネットワーク/インタフェース)。

 第1フェーズは,ユーザーがコアの光ネットワークをブラックボックスとして見て接続する形態。ユーザー側ネットワークとコア・ネットワークを分ける考え方で,オーバーレイ・モデルと呼ばれる(図3[拡大表示])。通信事業者などが運用する光ネットワークをサービスとして利用する場合がこのモデルになる。バックボーンは必ずしもIPネットワークでなくてもよい。ユーザー側からは,光バックボーンは専用線のように見え,全体が光IPネットワークになる。ただ,この第1フェーズでは,GMPLSはまだ必ずしも必要ない。ユーザーと光ネットワークとの間を結ぶインタフェースさえIP化できれば,ネットワークを構築できるからだ。

 GMPLSが必要になるのは,第2フェーズのピア・モデルである。ピア・モデルは,ISP同士が相互接続する場合のようにそれぞれのネットワーク,あるいはルーターが対等で,互いに経路情報をやり取りする接続形態。この場合,異なる光IPネットワーク同士を相互接続することになるため,IPレベルでネットワークを対等に接続するためにGMPLSが必要になる。

 GMPLSは,2001年末以降には製品に実装されて市場に出てきそう。早ければ2002年中にもGMPLSベースの光IPネットワークが実現されるかもしれない。





GMPLS以外にもある光IPネット向け新技術

 光ネットワークを支える技術は,GMPLS以外にも標準化が進められている。1つは光通信機器ベンダーが参加する任意団体のOIF(オプティカル・インタネットワーキング・フォーラム)で進めている「O-UNI(オプティカル-ユーザー・ネットワーク・インタフェース)」,もう1つは,通信技術の国際標準化組織であるITU-Tが進める「G.ASTN(オートマチック・スイッチト・トランスポート・ネットワーク)」である。

 O-UNIについては,GMPLSより一歩先行している。OIFが2001年6月に標準仕様のO-UNI1.0を公開したほか,米シスコ・システムズをはじめ25社のベンダーがSupercomm2001で相互接続デモを実施した。

 ただし,これらの技術は,今の段階では,必ずしも排他的なものではない。むしろ,補完関係にあると言っていい。O-UNIはオーバーレイ・モデルを実現するための仕様を規定するだけだし,GMPLSはピア・モデル向けの仕様策定を先行させているからだ。GMPLSは,オーバーレイ・モデルでいうコア・ネットワーク内で利用される技術だと考えればよい。もう1つの標準案であるG.ASTNを考えるとわかりやすい。G.ASTNは,GMPLSやO-UNIに対抗する技術仕様というよりも,光IPネットワークを構築するためのフレームワークを定義している。「技術仕様から見ると,コア・ネットワークではGMPLS,エッジ・ネットワークではO-UNIのそれぞれに準じた技術仕様を採用することになっている」(ノーテルネットワークスのプロダクト マーケティング オプティカル ソリューションズ課長である宮下 泰彦氏)。シスコの場合も,UCP(ユニバーサル・コントロール・プレーン)という名称で,O-UNIとGMPLSの両方を合わせて製品に実装しようとしている。