次世代の超高速バックボーンを支える新技術「GMPLS」が実用に近づいている。IP-VPNなどに利用されているMPLSを光ネットワークなどにも利用できるように拡張した技術だ。波長単位に光信号を転送できるため,高速なスイッチング処理が可能になる。同時に,このネットワークをIPレベルから管理・制御できるため,大規模化しても運用しやすい。つまりスケーラビリティの高いネットワークを実現できる。安価で,エンド・エンドでのストレスのない通信環境を実現するために不可欠な技術である。

(河井 保博=kawai@nikkeibp.co.jp)

 今後,インターネットをはじめとする超高速IPネットワークを支える新技術が実用化に近づいている。「GMPLS(ジェネラライズド・マルチプロトコル・ラベル・スイッチング)」と呼ばれる,光ネットワーク向けのコア技術である。技術仕様こそまだ標準化途上だが,すでにプロトタイプに実装し,デモを実施できるところまで来ている。

写真1●NTTが開発したGMPLSルーター
光クロスコネクト・スイッチにGMPLSを実装した。光信号を電気信号に変換することなく,波長を識別することによってスイッチングする。

 例えば,NTTの未来ねっと研究所は2001年5月にGMPLS対応のIPルーターを開発。6月に米国アトランタで開催されたSupercomm2001に出展し,デモを実施した(写真1[拡大表示])。米ジュニパー・ネットワークスも「SupercommでGMPLSのデモを実施した」(マーケティング・エンジニアリング・マネージャのジョン・スチュワート氏)。

 GMPLSは光ネットワーク用の技術。当然,主な対象ユーザーは大容量バックボーンを構築・運用する通信事業者や大手ISP(インターネット接続事業者)ということになる。だからといって,一般ユーザーに無関係ではない。これからやってくるブロードバンド時代に,エンドユーザーから見てストレスのない通信環境を実現するのに欠かせない技術である。通信事業者などのネットワーク運用の手間を軽減させるメリットもあり,エンドユーザーにとって,より安価なインターネット環境が提供されることにもつながる。

 さらに言えば,将来は,一般企業が拠点間やデータセンターとの間を結ぶWAN(広域網)にダーク・ファイバを使うかもしれない。GMPLSは,その光ネットワークのコア技術となる可能性を秘めている。

バックボーンの大容量化を支える

 インターネットのアクセス回線は,ADSL(非対称型ディジタル加入者線)やCATV,FTTH(ファイバ・ツー・ザ・ホーム)と高速化が進んでいる。当然,これらのアクセス・トラフィックを収容するバックボーン・ネットワークも高速性を要求される。

 もちろん,通信事業者や大手ISP(インターネット接続事業者)は,DWDM(高密度光波長多重)などの技術を使ってバックボーン・ネットワークの大容量化を図る。ただ,DWDMだけでは,光IPネットワークは構築できない。DWDMは光信号を多重する技術に過ぎないため,多地点を結んでバックボーンを構成するには光クロスコネクト・スイッチが必要になる。

 ところが,光クロスコネクトはIPと親和性がない。通信事業者は,物理的には1つのネットワークであるにもかかわらず,実質的には光ネットワークとIPネットワークという2つのネットワークを運用・管理しなければならない。光ネットワークはIPネットワークとはまったく別の技術を使うため,光とIPの両方の知識を要求される。通信事業者のように大規模かつ複雑なネットワークを運用する場合には,これが大きな足かせになる。

 といって,すべてをルーター・ネットワークで実現するのは難しい。ルーターの処理性能に限界があるからだ。特にIPルーティングするとなると,光信号をいったん電気信号に変換し,そこでIPヘッダーを識別して送出ポートを決定。再度,光信号に変換して送出することになる。このオーバーヘッドの影響をなくすには,信号を光のままスイッチングできる光クロスコネクトが不可欠である。

 こうしたスケーラビリティと運用・管理の問題の打開策として登場してきたのがGMPLSである。光クロスコネクトにGMPLSを実装したスイッチング・ルーターを使うと,光信号を光信号のままスイッチングできると同時に,パス(経路)の選択や決定はIP技術で実現できるようになる。

図1●MPLSの動作の様子と特徴
IPパケットにラベル情報を付加し,バックボーン上ではラベル情報だけを見てスイッチングする。IPヘッダーを識別しなくて済むため転送処理を高速化できる。また,バックボーンのスイッチ・ネットワークをルーター・ネットワークと統合的に管理・制御できる。また,トラフィックを仮想的なパスに振り分けて区別できるため,パスの切り替えや帯域制御といったトラフィック・エンジニアリングが容易になる。

ラベル・スイッチの利点は3つ

 実は,IPと下位レイヤーのネットワークの親和性については,かつてATMやフレームリレーを使った大規模IPネットワークを運用する際にも,同じ問題点が指摘されていた。解決策になったのはMPLS(マルチプロトコル・ラベル・スイッチング)。これと同じ考えを光ネットワークに応用したのがGMPLSである。

 MPLSは,例えば,あて先が同じIPデータを1つのトラフィック・フローとみなし,フロー自体にラベルを割り当てて,ラベル情報をもとにスイッチングする技術である。特徴は大きく3つ。(1)スイッチング処理を高速化できること,(2)IPと下位レイヤーの両方のネットワークを一元的に管理・制御でき,スケーラビリティを確保しやすいこと,(3)経路制御や帯域制御といったトラフィック・エンジニアリングを実現しやすくなること――である。いわゆるIP-VPN(IP仮想プライベート・ネットワーク)と呼ばれる通信サービスの多くは,バックボーン・ネットワークにMPLSを利用している。

 もう少し具体的に見てみよう。MPLSでは,IPヘッダーの外側(前)にラベル情報を挿入する。ラベル・スイッチング・ルーター(MPLS対応ルーター)は,いちいちデータ・パケットを分解してIPヘッダーを取り出さなくても,ラベル情報だけを見て次の送出先ポートを選択すればよい(図1[拡大表示])。つまり,スイッチング処理遅延が小さい。

 特徴の(2)と(3)については,フローを識別して,仮想的なパス(LSP:ラベル・スイッチト・パス)を設定することで得られるメリットである。ラベルの割り当て方は,ATMの論理チャネル(VCI/VPI),フレームリレーの論理チャネル(DLCI),バーチャルLANのID,あて先のIPアドレスといったものが基準になる。このLSPを設定することで,ATMやフレームリレーの論理チャネルをIPレベルの経路と融合させられるようになり,ネットワークを一元的に管理しやすくなる。さらに,LSPごとにトラフィック・エンジニアリングを実行できるため,帯域制御などを実現しやすい。