アプリごとに規約を用意

 最新仕様のBluetooth1.1のプロトコル・スタックは,図2[拡大表示]の通り。特徴は,プロファイルと呼ぶ専用のプロトコルを,アプリケーションごとに規定していることである。プロファイルは,ダイヤルアップ接続,LANアクセスなど13種類ある(表1[拡大表示])。上位層のプロトコルまで規定することで,実際のアプリケーションの相互接続性を確保する狙いがある。

 Bluetoothには音声通信の機能もある。ヘッドセットと携帯電話をつないでフリーハンドで通話するといった用途を想定したものだ。この音声通話のためのプロトコルも,プロファイルの1つとして規定されている。

 Bluetoothのプロファイルには,パソコンやPDA,携帯電話機間でスケジュールや電話帳を同期させるという,実際のアプリケーションに近いレベルの規定もある。ただし,「このプロファイルを使ったからといって,異なるベンダー間でスケジューラなどを同期させるのは難しい」(富士通モバイルPC事業部開発部長の磯部 祐司氏)。実際のアプリケーションでは,登録できる電話番号の最大数など,Bluetoothの規格に収まらない拡張が施されているからだ。異なるアプリケーションの相互接続は,これまでと同じように個別対応というのが現実的だろう。

図2●Bluetoothのプロトコル・スタック
アプリケーションごとに専用のプロトコル・スタック(プロファイル)を規定している。アプリケーション間の相互接続性を向上させる狙いがある。プロファイルより下層のプロトコル群を「コア」と呼ぶ
表1●Bluetooth1.1の13種類のプロファイル
Service Discovery Application ProfileはGeneric Access Profileの仕様をベースに規格化している。そのほかも同様である

実行速度は400kビット/秒程度

 Bluetoothの最高通信速度は,理論上は723.2kビット/秒。しかし実際の製品の実効速度は,「300k~400kビット/秒」(富士通の磯部氏)である。制御パケットのやり取りなどで,実際の通信速度は遅くなってしまう。

 723.2kビット/秒の通信ができるのは非対称通信の場合で,このときの逆方向の通信速度は57.6kビット/秒である。通信帯域は,片方向からのデータ通信量が多くなれば,自動的に広く割り当てられる。両方向とも同じデータ量をやり取りして,対称通信になった場合,理論上の最高速度は433.9kビット/秒である。

 通信速度は,「2002年春にも固まるBluetooth2.0で,最高2Mビット/秒または10Mビット/秒に高速化される予定」(東芝の伊藤氏)である。10Mビット/秒まで高速化されれば,家庭内LANでの用途も視野に入ってくるだろう。このほかBluetooth2.0では,ストリーミング・データのやり取りなど新しいプロファイルが追加される予定。Bluetooth2.0対応製品の出荷は,2002年後半になる見込みである。

 最大通信距離は現行の規格1.1で通常10mだが,送信電力を上げて(消費電力を大きくして),最大100mにまで距離を伸ばせる。現在発売されているBluetooth搭載のノート・パソコンやモデムでは,家庭内でのワイヤレスLANでの用途を見込んでいるため,ほとんどが100mまで通信できる仕様を採用している。

相互接続性の確認が必要

 Bluetooth対応の製品は今年に入って続々と登場しており,今年の夏以降には,より多様な情報機器でBluetoothの採用が進むだろう。しかし実際に製品を購入するなら,注意すべき点がある。現行の製品では,異なるベンダー間の相互接続が必ずしも確保されていないことと,バッテリの持続時間が不十分な製品があることである。

 Bluetoothの相互接続性の確保は,規格のバージョン・アップと並行して進められてきた。Bluetoothはこれまで,バージョン1.0が99年7月に公開されてから,1.0B,1.0B+CE(クリティカル・エラータ),そして最新仕様の1.1とバージョン・アップを繰り返してきた。どのバージョン・アップも機能拡張が狙いではなく,不具合を修正したり,仕様であいまいな部分を明確にするのが目的だった。

 現在発売されている製品はどれも,最新仕様の前段階であるバージョン1.0Bまたは1.0B+CEを採用しており,同一ベンダーの製品間でしか相互接続性を保証していない。ソニーが開発したKDDIの携帯電話も,同じ機種の携帯電話同士か,ソニーのノート・パソコン「VAIO」としか接続を保証していない。KDDIは,「他社のパソコンと相互接続できるか確認を進め,確認できればWebサイトで公開していく」としているが,こうした情報をきちんと確認しないと,「買ってみたがつながらない」といったことになる。

 このような相互接続の問題を解決しようと規定したのが最新仕様の1.1であり,「対応製品は7,8月には登場する見込み」(オープンインタフェース営業本部営業部部長の尾中 泰氏)。しかし1.1対応製品の相互接続の検証は,「今まさに進めている」(シャープ通信システム事業本部モバイルシステム事業部商品企画部主事の林 孝之氏)という段階。バージョン1.1に対応した製品でも,相互接続性をきちんと確認してから購入した方がよさそうだ。

140分でバッテリが切れてしまう

写真1●近距離無線通信技術Bluetoothに搭載した製品の例
(a)は,KDDIの携帯電話機(ソニー製)とソニーのノート・パソコンをBluetoothでつないでダイヤルアップ接続しているところ。(b)は,富士通のノート・パソコンとモデム・ステーション(左下),「i-Point」と呼ぶ携帯型機器(左上の赤枠)である。i-Pointは,パソコンとBluetoothで通信して,新着メールを読み出して閲覧したり,パソコン内蔵のDVD装置を遠隔操作したりする機能がある。(c)は,2001年5月に開催された「ビジネスシヨウ2001TOKYO」でシャープが参考出展したもの。赤枠がコンパクト・フラッシュ型のBluetooth通信カードで,ザウルスと富士通のモデム・ステーションをつないで見せた
 バッテリの持続時間も注意して製品を導入した方が良い。

 ソニーの携帯電話は,Bluetoothで実際にデータ通信しているかどうかにかかわらず,Bluetooth機能をオンにしていると,バッテリは約140分しか持たない。このため,ダイヤルアップ接続の前後に,Bluetooth機能を手動でオン/オフする操作は欠かせない。「携帯電話をカバンに入れたまま,ダイヤルアップ接続」というのは,実は実現できていないのである。

 Bluetoothは実際には,通信が切れている間に消費電力を抑える仕組みを持っている。富士通のBluetooth搭載の携帯型機器「i-Point」のように,その機能を実装した製品もある(写真1b[拡大表示])。i-Pointは単4乾電池2本で動作し,連続通信すれば4時間,スタンバイ状態なら300時間利用できる。

 このように消費電力を抑える機能は,携帯型機器には本来欠かせないものである。しかし,現在は製品によってバラつきがある状況だ。

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 このようにBluetoothには,まだ課題が残されている。しかし一方で,Bluetooth対応の機器は確実に増えていく。相互接続性などの問題はいずれ解決されるだろう。携帯電話機やノート・パソコンでBluetoothが当たり前の存在になれば,インターネットがより身近なものになる。