パソコンや携帯情報端末,携帯電話機といった身の回りの情報機器を,数百kビット/秒の速度でつなぐ無線通信技術「Bluetooth」──。特にモバイル・インターネットの使い勝手を良くするのに役立つ技術である。携帯電話機を胸ポケットに入れたまま,携帯情報端末などでダイヤルアップ接続ができるようになる。もっとも現行の製品は,マルチベンダー間の相互接続性が確保されておらず,バッテリの持続時間が不十分な製品もあるので,注意が必要だ。

(安東 一真=andoh@nikkeibp.co.jp)

 移動の合間のちょっとした時間に,お気に入りのスポーツ・サイトを見たい。こういうとき,ノート・パソコンと携帯電話が手元にあると,いつでもWebにアクセスできて便利だ。しかし実際には,なかなか行動に移さない。ノート・パソコンは開いても,ケーブルをカバンから探し出して,携帯電話とつなぐのが,どうも,おっくうだからだ──。

写真1●近距離無線通信技術Bluetoothに搭載した製品の例
(a)は,KDDIの携帯電話機(ソニー製)とソニーのノート・パソコンをBluetoothでつないでダイヤルアップ接続しているところ。(b)は,富士通のノート・パソコンとモデム・ステーション(左下),「i-Point」と呼ぶ携帯型機器(左上の赤枠)である。i-Pointは,パソコンとBluetoothで通信して,新着メールを読み出して閲覧したり,パソコン内蔵のDVD装置を遠隔操作したりする機能がある。(c)は,2001年5月に開催された「ビジネスシヨウ2001TOKYO」でシャープが参考出展したもの。赤枠がコンパクト・フラッシュ型のBluetooth通信カードで,ザウルスと富士通のモデム・ステーションをつないで見せた
 こうした悩みを解決する携帯電話機が日本で初めて登場した。低消費電力で安価に実装できる無線通信技術「Bluetooth」を採用した製品である。2001年6月中旬に,KDDIグループが出荷を始めた(写真1a[拡大表示])。

 Bluetoothの機能が携帯電話機とノート・パソコンの両方に搭載されれば,携帯電話機を胸ポケットやカバンに入れたまま,ノート・パソコンでダイヤルアップ接続ができるようになる。一見ささいなことだが,ケーブル接続の作業がなくなるだけで,モバイル・インターネットの使い勝手は格段に向上する。

 東芝が,「今後すべてのノート・パソコンにBluetoothを載せていく」(Bluetooth事業推進室企画担当グループ長の伊藤 春彦氏)というように,Bluetoothを搭載する機器は,ますます増えていく方向だ。現在のところ,異なるベンダー間で相互接続性が確保されていないなど,課題は残されているが,Bluetoothはいずれ広く普及する見込みである。

身の回りの機器を無線でつなぐ

 Bluetoothはそもそも,パソコンや携帯情報端末,携帯電話機,ディジタル・カメラといった身の回りの情報機器を無線でつなぐための通信技術。通信距離を10m程度,最高速度を723.2kビット/秒と抑えることで,通信モジュールの価格が安く,その消費電力が低くなることを目指したものである。このため,携帯型の機器でも容易に実装が可能だ。

 Bluetoothは2000年後半から,ノート・パソコンやプリンタ,モデムなどで採用され,実用化が進んだ(写真1b)。これらの製品では,パソコンとモデムをワイヤレスでつないでインターネットにダイヤルアップ接続したり,パソコン間でファイル転送するといった使い方を想定しており,主に家庭での利用を見込んでいる。

 Bluetoothを採用する携帯情報端末(PDA)も,まもなく登場する見込み(写真1c)。PDAと携帯電話の接続を考えると,Bluetoothの効果は一番分かりやすい。立ったままPDAを操作するとき,携帯電話とケーブル接続するのは非常に面倒。ワイヤレスで使えれば,その利便性は大きい。

 今後は,ディジタル・カメラ,カーナビ,さらにインターネット対応の電子レンジといった情報家電などで,Bluetoothの採用が進むと見られている。Bluetoothを使えば,身の回りにあるこうした情報機器の間で,PAN(パーソナル・エリア・ネットワーク)を構成できる。このPANを経由して,さまざまな機器が,容易にインターネットにアクセスできるようになる。

LAN用途では無線LAN

図1●Bluetoothと他の無線通信方式との比較
Bluetoothは無線LANと比べると,利用時の消費電力が小さいため,携帯電話やノート・パソコンなどのモバイル機器での利用に向く。ただしデータ通信速度が最高723.2kビット/秒と低速である。IrDAはBluetoothよりも高速だが,通信ポートを向かい合わせで使う必要があり,モバイルでの利用には不便な面がある
 Bluetoothの適用領域を,最高11Mビット/秒の無線LAN(IEEE802.11b)と,最高4Mビット/秒の赤外線通信技術であるIrDAと比較しながら,もう少し詳しく見てみよう(図1[拡大表示])。

 オフィスのパソコンなどから,インターネットにアクセスするための無線ネットワークとしては,もともとその用途で開発された無線LANが向いている。最高723.2kビット/秒のBluetoothでは,通信速度が不十分である。

 家庭内LANで使うなら,Bluetoothも適用可能だろう。Bluetoothは家庭のユーザーが手軽に使えるというメリットがある。無線LANと違って,DHCPサーバーなど面倒なTCP/IP関連の設定が不要だからだ。

 家庭内で56kモデムやTA(ターミナル・アダプタ)をワイヤレスで利用する目的なら,Bluetoothの低速性は問題にならない。ファイル共有やプリンタ共有の用途でも,データ転送量がそれほど大きくなければ十分だろう。

 しかし家庭でも,1Mビット/秒程度以上のブロードバンド接続を利用する場合には,Bluetoothでは不足である。より高速な無線LANが向く。

Bluetoothはモバイル通信に向く

 これに対してBluetoothが向くのは,冒頭で述べたように,モバイル・インターネットでの用途である。現行の携帯電話/PHSは通信速度が最高64kビット/秒程度なので,Bluetoothの低速性は問題にならない。そもそも無線LANは消費電力が大きいため,携帯電話への搭載は難しい。

 モバイル・インターネットを手軽に利用するには,カード型のPHS(NTTドコモのP-in Comp@ctなど)などを利用する方法もある。しかしこの場合,PHSの月額基本料金が別途かかってしまう。Bluetooth搭載の携帯電話/PHSなら,1台で通話とデータ通信の両方に使える。

 IrDAはBluetoothと同様にPAN向けの通信技術であり,消費電力が小さいため,携帯電話などへの搭載も可能である。しかし赤外線通信なので,通信ポートを向かい合わせにしないと通信できず,使い勝手が悪い。