市町村合併に伴うシステム統合でトラブルが急増している。日経コンピュータが7月末にシステム統合について緊急アンケートを実施したところ、4月以降に合併した自治体の3割でトラブルが起きたことが分かった。データの検証不足に起因するケースが多い。
表●2005年4月1日以降に合併した自治体で発生したトラブル |
データ移行でトラブル多発
トラブルの原因は、データ移行の失敗、運用上のトラブル、ハード障害、プログラムミスなど多岐にわたる。
市民税の未納催告書を納税済みの市民170人に送ってしまった富山市は、データ移行で失敗した。旧自治体から新市へのデータ変換作業を進める中、一部の旧自治体からデータが届いていないことに気づかなかった。市民税のデータはチェックしきれず、合併後に市民からの問い合わせで発覚した。
税、福祉、上下水道などで計18件ものトラブルを起こした宮城県登米市のケースも、そのほとんどがデータ移行時の確認不足が原因だ。国民健康保険のデータ移行では、旧自治体を担当するベンダーから新市のベンダーへデータを移す段階で変換ミスが発生、資格取得年月日などの記載を間違えた。さらに税の情報については、旧自治体から移行した際の元データそのものにも間違いがあった。
登米市の場合は、合併前の9つの自治体でそれぞれベンダーが異なり、データ変換やシステム統合作業に時間がかかったという背景もある。当初の期限通りにデータを提供しない自治体のベンダーもあり、作業が進まなかったという要因もあった。
ハード障害や運用の失敗も
ハード障害やプログラムミスによるトラブルも数件発生している。
愛知県一宮市は合併初日に、システムの過負荷のため証明書の発行に遅延を生じ、窓口で市民を2時間以上待たせる事態となった。同市はシステムやデータベースのチューニングで、問題を解決した。
愛知県稲沢市は、合併日のシステム起動直後にハードディスク障害が発生、その後3時間にわたってシステムが停止して、市民39人に住民票などを発行できなかった。検証作業に力を入れる一方、ハード障害まで想定していなかった。兵庫県淡路市も原因不明のトラブルで新規導入したサーバーがダウン、予備系システムが引き継いだが、切り替えや状況確認のため、1時間ほど証明書の発行ができなくなった。
静岡県浜松市は、証明書の発行プログラムでエラーが見つかった。介護保険業務の証明書を本庁舎や旧自治体の役場で発行できなくなり、計74の書類を後日郵送することになった。
静岡県伊豆の国市では、住民に割り振っていた整理番号の変換プログラムのエラーのため、別の住民の税の情報が誤って登録されるトラブルが数件起きた。統合前に各課にデータチェックを依頼したが、全件チェックは実施していなかった。
新システムの使い方について職員への周知徹底不足が、結果としてトラブルになりかけたケースもある。和歌山県串本町では、今年1月~3月に旧自治体で新システムを使いデータを入力した。この際、データの入力順番が変わると正しくデータを入力できないケースがあることに職員が気付かず、誤ったデータが保存されてしまった。データ統合作業中に問題が判明したため、サービスでの実害はなかった。
検証体制の確立を急げ
トラブルの原因の多くは、データの検証不足によるものだ。「データ検証に3カ月かけたが、問題は発見できなかった。もう少し時間がほしかった」(沖縄県うるま市)というように、合併までの厳しいスケジュール下で、十分な検証時間を取れなかったことが背景にある。ただし今回の調査では、トラブルを起こした自治体の検証期間とトラブルがなかった自治体の検証期間を比較すると、いずれも平均3カ月強で大きな差はなかった。原因は必ずしも検証期間の長さだけではない。新潟県妙高市は、「請求書の送付前に市役所の職員が再度データのチェックをするなどして、単にベンダーまかせにしない、二重チェックの徹底が不可欠だ」と指摘する。
情報システムごとに統合方法を聞いたところ、一つの既存システムに寄せたケースが最も多く全体の64%を占めた。新規にシステムを開発した自治体は27%程度だった。トラブルは統合方法によらず発生していた。
すでにトラブルへの対処をすませた自治体でも、今後新たなトラブルが発生する可能性はある。広島市では「稼働前の事前検証では不十分と判断、検証漏れがあることを前提に、合併後1年間はデータのチェックを徹底するように各部署に通達している」という。
今回判明したトラブルは一部に過ぎない。2005年7月に2400弱ある自治体は、2006年3月末に1800程度まで減る予定で、合併は今年度後半も続く。時間を割いてデータの総点検に取り組むとともに、統合後も継続的なチェックが欠かせない。
本記事は日経コンピュータ2005年8月8日号に掲載したものです。
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