日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が、ユーザー企業のシステム投資案件の実態を調査した。投資額を含めた大規模な調査は国内では、これが初めて。4月に人月単価や生産性などの分析結果を公表した。これらを基準値に、ユーザー企業がプロジェクトを評価できるようにするのが狙い。

図●JUASが算出した開発コスト、品質、工期の実状
 JUASが調査・分析したのは、開発コスト(生産性)、品質、工期の三つの指標値。結果は、開発コストが「人月単価90万円」、品質は「不具合の発生率は開発コスト500万円(約5.6人月規模)当たり1個以下」、工期については「プロジェクトに投入した全人月の立方根の2.7倍」―という実態が明らかになった([拡大表示])。

 今回の調査は、2004年10月初旬から2005年1月下旬にかけて、JUAS会員を中心としたユーザー企業40社を対象に実施し、133件のプロジェクト・データを収集した。その実績データをJUASが想定するプロジェクト・モデルに当てはめ三つの数値を弾き出した。プロジェクトの規模は平均2億1000万円だ。

 開発コストは、設計から開発、テストまでの工程に掛かったコストを合計したもの。加重平均は95万5000円だったが、単回帰分析した結果、開発コストの人月単価は90万円になった。

 品質の基準値とした開発規模の不具合数は、ユーザー側の受け入れテストからシステム安定稼働までに発見した不具合の数を、プロジェクトの総工数(人月)で割ったもの。それに人月単価90万円の結果を加味し、発生率を500万円に1個以下とした。調査したプロジェクトの43.4%は、人月当たりの不具合数が0.25個未満だったという。

 今回の結果について、調査をまとめたJUAS専務理事の細川康秀氏は、「多くの関係者が経験などから抱いてきた相場観を実データで確認できた」と話す。例えば、品質の「500万円に1個以下の不具合」がそれ。工期についても、米国で使われている見積もり手法「COCOMO法」が示す開発期間と工数(人月)の関係式とほぼ一致した。

 JUASが今回の実態調査に臨んだ背景には、「品質や納期といった特性とコストの関係を明らかにしたい」(細川氏)とのユーザー・ニーズが高まっていることがある。現状では、例えば品質を10倍高めることを要求すると、費用も10倍が妥当なのかどうか、の判断基準がない。細川氏によれば「ユーザー企業は高い満足度が得られるなら、投資額が高くてもよいと考え出しているが、その“高さ”を測るためのよりどころを欲している」という。

 ただ今回の結果そのものは「費用を決める基準値として適用するのは尚早」(細川氏)だ。分析対象プロジェクトが133件にとどまるからだ。生産性などに大きく影響するプロジェクトの特性、例えばユーザー側の取り組み体制や開発支援ツールの充実度などを考慮していない点も課題として残る。

 基準値の精度を高めるためJUASは、継続してプロジェクトのデータを収集するとともに、プロジェクトが置かれた環境を考慮したコストや生産性の分析に取り組む計画だ。そのための研究会を6月にスタートさせる。

 加えて、評価基準をユーザー・インタフェースの操作性や応答速度の高さ、保守の容易さなど、システム視点からユーザー視点に広げる。操作性などの測定基準については既に、昨年度から研究に着手している。

(森側 真一)

本記事は日経コンピュータ2005年5月2日号に掲載したものです。
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